(写真:共同通信)
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 高齢者の死亡事故が後を絶たない。6月4日、福岡市早良区の交差点付近で車6台が絡み、9人が死傷する事故が発生した。車を運転していたのは81歳男性で、同乗していた妻とともに死亡した。高齢ドライバーの事故では、4月にも東京・池袋で旧通産省工業技術院の元院長(87)が事故を起こし、母子2人が犠牲になったばかりだった。事故原因などは捜査中だ。

 高齢ドライバーの事故対策として、2009年6月に施行された改正道路交通法は75歳以上の高齢者が免許更新する場合に「認知機能検査」を受けることを義務付けた。

 制度導入から丸10年。効果はあったのだろうか。

 警察庁によると、2018年に75歳以上のドライバーが第1当事者(過失が重い)となった事故は約3万2000件で全体の7.9%を占めた。一方、認知機能検査が導入される前の08年は75歳以上のドライバーによる事故の割合は4.1%。事故件数で見ても、全体数では18年に40万6755件と08年比約44%減少しているにも関わらず、75歳以上ではむしろ7%増えていた。

 認知機能検査は記憶力や判断力を測定する検査で、所要時間は約30分。3つの検査項目を受検する。検査時の年月日や曜日、時間を回答する検査、時計の文字盤と指定された時刻を表す針を描く検査、イラストを記憶し、その後に記憶している内容を回答する検査だ。17年3月施行の改正道交法により認知機能検査で「認知症の恐れがある」(第1分類)と判定された場合、医師の診断を受けることが義務となった。改正前は一定の違反行為がなければ医師の診断は不要で注意喚起にとどまっていた。

 警察庁の調査研究を見ていくと、18年に認知機能検査を受けた約216万5000人のうち、「認知症の恐れ」があるとする第1分類と判定されたのは延べ約5万4700人(2.5%)いる。ところが、再受検の結果、「認知機能低下の恐れ」(第2分類)または「認知機能低下の恐れなし」(第3分類)とされた人が約8700人存在している。認知機能検査は「再受検」が可能なのだ。

 名古屋大学大学院の加藤博和教授(交通政策)は「運転免許は一度取り消されてしまえば再取得は厳しい。取り消しには慎重になっているというのが現状だ」とし、その上で「再検査の手法にも問題がある。たとえ通常の人よりも間違える確率が高く、たまたま1回うまく検査をパスすれば『問題なし』との判断を得ることもできる」と指摘する。

 また第1分類とされた約3万9000人のうち、医師に「認知症」と診断されるなどして免許取り消しになった人が1965人(5%)、自主返納や免許失効に至った人が約2万3700人(60%)を占めた一方、免許継続となった人も約1万3700人と約35%に上っていた。「認知症ではないが認知機能の低下がみられ、今後認知症となる恐れがある」と診断され、原則6カ月後の診断書提出を求められるケースが約1万人と26.3%だった。

 さらに18年に第2分類と判定された約53万1千人(24.5%)についても、高齢者講習を受ければ原則3年間は運転できる。死亡事故を起こした75歳以上のドライバーのうち、約半数は直近の認知機能検査で第3分類と判定されていることも明らかになっており、認知機能検査の結果が全ての事故の防止につながっていないのが現実だ。

 日本神経学会などは高齢者の運転能力の判断について、認知症診断でなく、実際の運転技能で判断することなどを2017年に提言している。加藤教授は「認知機能が低下している人は自らの運転技術の衰えにも気づきにくい。ドライブレコーダーを1カ月分提出してもらうなど、実際のドライブ技術で判断することが必要だ」としている。

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