6月4日に新潟市で、人工知能学会の全国大会が開幕した。参加者は昨年よりも約460人増えて約2250人に達し、協賛企業数も18社増えて85社に、出展企業数も27社増えて75社になるなど、まさに第3次AIブームを象徴するにぎわいとなっている。

全国大会で講演する浦本直彦・人工知能学会会長
全国大会で講演する浦本直彦・人工知能学会会長

 ここ数年で人工知能学会の会員数も急増している。背景には、機械学習の1種である深層学習(ディープラーニング)研究の大きな進展がある。「2012年から2019年までの全国大会に採択された論文数約5000件のうち、タイトルに深層学習という単語がある論文数が最も多く236件だった」と、4日11時から行われた基調講演でAI学会の浦本直彦会長(三菱ケミカルホールディングス)は説明した。2番目に多かった単語は機械学習(148件)。そのほか深層学習関連の単語が含まれる論文が増えている。

 ところが、AIブームの火付け役である深層学習のビジネス活用は一向に進んでいない。なぜか? 浦本会長は「深層学習を活用した成功事例が出ていないから、企業経営者も『よしやってみよう』という気にならないのではないか」と解説する。基調講演の中で浦本会長は「AIを活用して価値を生み出さなければならない」と強調したが、それを示す事例が出ていないのが実情だ。

 さらに深刻なのが、若手AI研究者が海外に出ていかない点だ。NSFによれば、コンピューター科学系米大学院への留学生数(2012年)は、インドが1万2280人、中国が7550人、サウジアラビアが1250人、韓国が670人、台湾が550人に対して、日本は60人と極端に少ない。ある大学のAI研究者は「日本の学生はAIを研究していればいい会社に入れるので、海外に出かけて行って研究しようという意欲のある学生がほとんどいない」と嘆く。そこで人工知能学会では「若手研究者を海外トップカンファレンスに派遣することにした」(浦本会長)という。若いうちから海外を経験させて、競争意識に火を付けようという考えだ。学会の会員数は急増しているが、浦本会長の危機感は募るばかりである。

 4日午後には、「AI研究に自由はあるか?~AI倫理をめぐる世界の動向を踏まえた第一歩とは?~」という企画セッションがあった。AIについては、企業の連携団体であるPartnership on AIやIEEE、OECDなどの国際組織で様々な議論が展開されている。国内でも内閣府や総務省、人工知能学会などがAIに関する開発指針を発表している。「AIを活用した自動運転車が事故を起こしたら誰が責任を取るのか」といった問題に関する議論は深める必要がある。

 ただ、日本の場合は、AIの研究開発やビジネス活用についてもっと踏み込んだ取り組みが求められている。AIブームの今こそ、AIの特性を深く理解して、自社のどの領域で活用すれば新しい価値を生み出せるのか、経営者や中間管理職は真剣に考えるべきだろう。そうしないと、世界的に競争力のある自動車産業やロボット産業、精密機械産業などが衰退しかねない。

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