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 「米国製と同様の半導体チップを製造する能力はある」

 21日、華為技術(ファーウェイ)の任正非CEO(最高経営責任者)は中国メディアの取材に応じてこう述べた時、その翌日に半導体製造の開発・設計の前提がひっくり返るとは思っていなかっただろうか。

広東省深セン市のファーウェイ本社

 BBC(英国放送協会)は22日、英半導体設計大手のARM(アーム)ホールディングスがファーウェイとの取引を停止するよう従業員に通知したと報じた。米国がファーウェイを国家安全保障や外交政策上の懸念があるとして「エンティティー・リスト」と呼ぶ取引禁止対象リストに載せたことを受けた措置だ。ARMの技術の一部に米国由来のものがあり規制に抵触すると判断した。ARMは「米政府の全ての規制に従うがそれ以上のコメントはない」としているという。

 米調査会社のIDCによれば2019年第1四半期のファーウェイのスマートフォン世界シェアは米アップルを抜き、韓国サムスン電子に続く2位。だが、ARMの技術が利用できなくなれば、ファーウェイのスマートフォン事業は大きな打撃を受ける可能性が高い。グーグルによるOS(基本ソフト)「アンドロイド」の輸出禁止に際しても「ずっと開発してきた独自OSを提供すればよい」と動じなかったファーウェイだが、ARMの技術だけは当面代替が不可能だとみられるからだ。

 ARMは省電力半導体設計に強みを持ち、現在のスマートフォン向け半導体チップの大半は同社技術を採用している。米クアルコムや米アップル、韓国サムスン電子、台湾メディアテックなど、半導体チップメーカーはARMの設計情報のライセンスを受けずには事実上ビジネスを継続できない。そしてファーウェイの半導体開発を担う中核子会社、海思半導体(ハイシリコン)もARMの技術に頼っていた一社だった。

 英国はファーウェイにとって、西側諸国における「砦(とりで)」のような存在だった。ファーウェイは英国政府と比較的緊密な関係を保ち、技術情報の提供を欠かさなかった。英国が米国の意向に反してファーウェイを「5G」から排除しなかったのは、こうした取り組みがあったからだ。またファーウェイは今月4日、半導体の研究開発拠点をARM本社近くに設ける計画も発表している。その英国企業であるARMがファーウェイの急所を貫く矢を放つことになったのは、皮肉としか言いようがない。

レアアース関連企業を視察した習近平国家主席

 だが、この展開に頭を抱えているのは、むしろ米トランプ大統領のほうかもしれない。同大統領がファーウェイへの制裁を米中貿易交渉の「場外戦」として利用しようとしていたのは明らかだ。昨年の中興通訊(ZTE)に対する取引禁止措置の時のようにうまくいくと高をくくっていたのかもしれないが、中国からみればZTEとファーウェイでは重要度がまるで異なり、容易に譲歩することは考えられない。

 中国政府とファーウェイは「米国はスパイ行為などの証拠を何一つ示せていないのに民間企業に難癖をつけている」というスタンスを崩していない。その米国の規制によってファーウェイが容認できないほどのダメージを受けることが明らかになったのだから、中国政府の反発がさらに強まるのは必至だ。

 習近平国家主席が20日、中国から米国に大量に輸出されているレアアースの関連企業を視察した。これが米国への報復措置の内容を示唆しているのではないかと見る向きは多い。中国国営メディアの中でも米国を非難する強硬な論調が増え始めている。米国がファーウェイへの制裁を率先して交渉カードに使ったことで、中国側も様々な報復手段が使いやすくなったことは否めない。

 トランプ大統領が仕掛けた場外戦の影響は世界に広がり始めている。

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