
経済環境の大きな変化や大規模な災害の際に中小企業などに資金供給を行う危機対応業務を利用して、組織的に不正な融資を繰り返していた問題が発覚して約1年。政府系金融機関、商工組合中央金庫(商工中金)が、5月17日に2019年3月期決算を発表した。昨秋に発表した2021年度までの中期経営計画では、再発防止策とともに、経営改善や事業再生、事業承継、リスクの高い事業に乗りだす企業への支援を「重点分野」と位置づけビジネスモデルの柱とすることを掲げた。
今回の決算では、その傾向が顕著に表れた。収益の柱に据えたい重点分野への貸出残高は9800億円から1兆3995億円と増加。2021年度までに重点分野での総貸出残高を3兆1100億円まで積み上げることを目指す中計のスタートとしては「当初の想定を上回る進捗」(関根正裕社長)となった。だが、貸出金全体の減少や、利回りの低下で純利益は前期比58.6%減の154億円。本業のもうけを示す業務純益は306億円と、107億円減少。将来の貸し倒れに備えた与信費用の増加も収益を押し下げた。
民業補完の役割が求められている商工中金の貸出先は、通常の金融機関が手を出しにくい高リスクの企業が大きい。それだけに、担保を前提としたリスク回避のみならず、事業の将来性や課題、資金繰りの見通しといった様々な観点から貸出先を評価する必要がある。商工中金が目指すのは、こうした事業評価を基に融資を実行する「事業性融資」だ。「今までやってきた分野ではないので現場でも苦労が続いているが、好事例も出始めている。やり方を共有し、取り組み姿勢を強化していきたい」と関根社長は話す。
事業性融資は現在、貸出先の不足に悩む地方銀行などに対しても、金融庁が取り入れるよう促している手法でもある。「長期的な視点で企業を見つめ」ることを使命に掲げている商工中金にとっては、「原点回帰」とも言えるだろう。
担保ではなく事業の将来性などを評価しなければならない事業性融資を拡大することは容易ではない。だが、商工中金が先行してノウハウを蓄積できれば、地方銀行も事業性融資を積極化する流れが生まれるかもしれない。それだけに、商工中金に期待される役割は大きい。本来あるべき姿への回帰は、これからが勝負といえよう。
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