
自動運転向けのデジタル地図で先行するオランダのヒアテクノロジーズは15日、日本で位置情報データプラットフォームの提供を始めると発表した。
同社が持つ地図情報をベースに、交通や気象、人の動きなどさまざまな位置情報データを第三者が売買できるという。ヒアは「ダイナミックマップ」と呼ばれる高精度な3次元地図で先行する。米グーグルなどと位置情報のプラットフォーマーの座を争うなか、「中立性」を武器に幅広い日本企業に参加を呼びかける戦略だ。
ダイナミックマップは人が読む地図ではなく、機械が読む地図だ。地形や道路を3次元的に把握し、マップ上の走行車や環境の情報が常に書き加えられる。例えば、ある場所で先行車がブレーキを踏んだりエアバッグを作動させたりしたデータを収集、解析する。この情報をもとに、後続車に危険を警告したり、リスクを避けるように自動運転を制御したりすることが可能となる。物理的な道路の形状や建物の情報以上に、位置情報をもとに、その地図の上に積み上げられる付加情報の厚みが価値を決める。
こうした情報を収集、解析するため、2019年第2四半期までに日本で提供を始めるのが「ヒア・オープンロケーションプラットフォーム(OLP)」と呼ばれるデータ収集基盤だ。既に海外では提供が始まっており、世界中の企業はOLP上で自社が持つデータの売買ができる。他社のデータと組み合わせ、解析やシステム開発、さらには成果物の販売もOLP上で可能になる。
データの量と遍在性が鍵を握る
ヒアがこうしたプラットフォームの展開を全世界に広げているのは、データの量がまだ不十分だと考えているためだ。ダイナミックマップのベースとなる3次元地図は既に各国で整備されつつある。ただ高いレベルの自動運転を実現するためには、地図情報の更新やリアルタイムでのデータ反映が欠かせない。
ヒアは独アウディやメルセデス・ベンツの車載センサーデータから解析した交通情報をドライバーに即時提供するサービスを今年から開始する。こうした高級車は西ヨーロッパに偏りがあるなど、欧州だけ見てもデータ量や網羅性に満足しているとは言い難い現状だ。「実際にレベル4の実現を考えると、センサーデータの不足と偏りに課題がある」(バイスプレジデント兼 高度自動運転担当責任者サンジェイ・スード氏)とし、データ提供や解析を行う仲間づくりが急務となる。
日本ではトヨタ自動車の自動運転子会社トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)が、高精度地図に関するデータ収集基盤を開発中。競合ともなり得るが「今週にトヨタなどの訪問も予定し、関係は良好」とした。2017年にはパイオニア子会社で地図事業を担うインクリメントP(東京・文京)と提携するなど日本におけるパートナー開拓も着実に進めている。
本格的にプラットフォームの活用が進めば、物流や都市計画、さらには気象情報と位置情報を紐づけた農業などへの市場の拡大が期待できる。「ロケーションテクノロジーはどんな業界にでもユースケース(利用事例)が見出せ、大きなビジネスの機会が存在している」(オーバービークCEO)と述べ、日本企業の参加を呼び掛けた。
デジタル地図分野は、データや技術を自前で抱える巨大プラットフォーマー・米グーグルが世界の市場を押さえようとしている。ヒアはこの巨人に対して「中立性」を武器として挑む考えだ。
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