トヨタ自動車の豊田章男社長の終身雇用に関する発言が話題を呼んでいる。13日の日本自動車工業会の会長会見で「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べた。

背景にあるのは、グローバルでのコスト競争の厳しさ。国境や業種を越える競争が激しくなるなか、企業は労働者に優しいとされる「日本的雇用」との向き合い方を模索せざるを得なくなっている。
豊田社長は「今の日本をみていると、雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがあまりない」と指摘した。経団連の中西宏明会長も「企業からみると(従業員を)一生雇い続ける保証書を持っているわけではない」と話し、雇用慣行の見直しを唱えている。
終身雇用は年功序列と並び、日本企業における特徴的な雇用制度とされる。また、懲戒解雇に該当するような理由がない限り、日本では解雇することが難しい。「新卒で採用された会社に定年になるまで働き続ける」という働き方は徐々に変わってきてはいるが、今もなお、日本の人材の流動性は諸外国と比べて緩やかだ。
ただ、グローバル化と急速な技術革新により、日本的雇用の前提は崩れ始めている。トヨタの場合、連結の新車販売台数の国内比率は25%。「100年に一度の大変革期」(豊田社長)にあっては、今後の競争力維持のためにはコネクテッドや自動運転など「CASE(参考記事はこちら)」への対応が不可欠で、研究開発費などのコストも膨らむ。
米ゼネラル・モーターズが北米5工場の閉鎖を発表するなど、ライバルは大胆なコスト圧縮で新たな時代への適応を図る。自動運転分野などでは米グーグルなど、世界中の頭脳を集めるIT(情報技術)大手との競争も本格化する。豊田社長は「世の中が日々変わる中、全ての変化に神経を研ぎ澄ませる必要がある」と語っており、今年の春闘では、回答日当日まで労働組合とのギリギリの交渉を繰り広げた。
今のところ、自動車業界や電機業界の労働組合に、豊田氏や中西氏の発言を受けた動きはない。ただ、ある上場企業の元人事担当役員は「終身雇用は新卒一括採用や春闘など、日本的な雇用制度の根っこにある。グローバル経営を突き詰めれば、労働組合も人事部もいらなくなる」と指摘する。
ある労組幹部は豊田社長の発言について、「これまでのやり方では生き残れないという危機感の現れだと思っている」と話す。働き方改革が進む日本だが、世界の競争原理は「茹でガエル状態」(前出の元人事担当役員)を許してくれない。豊田社長の発言は、雇用維持への政府支援の必要性を訴えているようにも映る。「パンドラの箱」が開き始めているのは確かなのだろう。
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