楽天モバイルがKDDI回線を借りる「ローミング(相互乗り入れ)」を拡大する方針へと転換した。自前の基地局整備への先行投資でグループ全体の財務が悪化する楽天側に、KDDIが救いの手を差し伸べた格好の今回の契約。ただ事情はそれだけではない。KDDIにとっても楽天モバイルからのローミング収入は無視できない収益源だ。両社が決断に至った背景には、双方の思惑が透けて見える。
「KDDIとの新たなローミング契約で、人口カバー率は他の大手3社と遜色なくなる。両社(楽天モバイルとKDDI)にとって経済合理性のある契約だ。楽天モバイルとして、可及的速やかに自社ネットワークを構築する必要はなくなった」
12日に開催した楽天モバイルのイベントに登壇した楽天グループの三木谷浩史社長兼会長は、KDDIと新たに結んだローミング契約について、こう語った。自前の基地局でも人口カバー率は98%は超えたが、今でも店舗内など奥まったエリアではつながりにくいケースがあった。

楽天モバイルが11日に発表した、KDDIと新たに結んだローミング契約では、これまで両社のローミング契約に含まれていなかった東京23区など都市部の繁華街エリアが新た加わった。新たなローミング契約で人口カバー率を一気に99.9%にまで引き上げられるとする。契約期間は23年6月から26年9月までの約3年間となる。
「二重投資」で財務が悪化
楽天モバイルは携帯電話サービスの立ち上げ時から、KDDIとローミング契約を結び、自前基地局がないエリアでもサービスを提供するため、KDDI回線を活用してきた。ただ三木谷会長がかつて「ローミング費が本当に高い」とこぼしたように、高額なローミング費負担は自前基地局への設備投資とともに二重の重荷になっており、楽天グループ全体の財務を悪化させる要因になっていた。
楽天モバイルは、この二重投資の状況から早期に抜け出すべく、自前の基地局設置を前倒ししてきた。自前の基地局があれば、そのエリアについてはKDDIとのローミング契約を打ち切ることができるからだ。
だが22年12月期にはモバイル事業の設備投資が約3000億円となるなど、先行投資がグループ全体の経営を圧迫。同じ期の楽天グループの最終損益は3728億円の巨額の赤字に陥った。
24年には基地局の設備投資などに活用してきた3000億円超の社債返還も控える。「0円プラン」廃止後に契約数が減少するなど、モバイル事業の「稼ぐ力」も弱まるなか、楽天グループは瀬戸際に追い詰められていた。
そんな窮地の楽天グループにとって今回のKDDIとの新たなローミング契約は慈雨となる。自前の基地局への投資を先送りすることが可能になり、先行投資で火の車だった台所事情も一息つけることになる。
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