
三菱自動車(以下、三菱自)が5月9日に開いた2019年3月期の決算会見。益子修会長兼CEO(最高経営責任者)は、「皆さんも私たちも、急ぎすぎてはいませんか」と述べ、規模拡大路線に一線を引き、現在強みを持つ東南アジア諸国連合(アセアン)を中心とした新興国市場に集中する戦略を強調した。
三菱自は1960年代にタイ市場に参入するなど古くから足場を固めてきた。前年同期比約14%増となった19年3月期の連結営業利益1118億円のうち、アセアンとオセアニア市場の合計が約7割を占めた。
好調の要因の1つは17年にインドネシアに投入した小型MPV(多目的車)「エクスパンダー」だ。フィリピン、タイ、ベトナムにも市場を広げ、累計販売台数は13万7000台。スリーダイヤを代表する世界戦略車となった。エクスパンダーがけん引し、19年3月期のグローバル販売台数は124万台と前年同期比で13%増えた。

ただ自動車業界では世界経済の不透明さと景気の停滞で向かい風が吹いており、益子会長は今後の見通しについて強い危機感もにじませた。20年3月期の見通しではグローバルでの販売台数は5%増としたものの、営業利益は19%減の900億円となる。為替要因のほか、開発費の負担が重くのしかかる。「CASE(つながる車、自動運転、シェアリング、電動化)」への対応が迫られるなか、三菱自単独では設備投資や開発投資の負担は難しい。
生き残りのために出した答えが、拡大ではなく競争力のある地域・セグメントへの集中だ。三菱自は16年から仏ルノー・日産自動車・三菱自動車3社連合(アライアンス)に参加。連合を率いた日産元会長のカルロス・ゴーン氏はグローバルで販売台数を増やす成長戦略をとってきた。ルノーが欧州、日産が北米や中国、日本と地域ですみわけるかたちで、三菱自はルノーと日産が手薄なアセアン・オセアニア市場での存在感が求められた。ゴーン氏は日産から去ったが、その戦略をさらに進める考えだ。
「昨年秋以来(経営の方向性について)ゴーン会長と話をした」という益子会長。ゴーン氏から出たのが「スモール・バット・ビューティフル(Small but Beautiful)」というキーワードだったという。3社の中で規模は一番小さいが、利益率では一番を目指すという思いから出た言葉だ。競争力のある市場に集中し、北米や欧州などは固定費削減などコスト減に努める。「ビューティフル」は利益重視を意味し、「次期中期経営計画での利益率6%の達成も非常に現実的にとらえている」とした。
「アライアンスに属していれば安泰という幻想を捨て、独立した存在として自ら考えて実行する」と述べた益子会長。日産・ルノー間でくすぶる経営統合論には距離を置く見解を示したが、ゴーン氏の「置き土産」なくして持続的に成長することは難しい。
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