
「今後の成長への仕込みの期間とする」。ニコンは5月9日、2021年度までの新中期経営計画を発表した。景気の波を超えて半導体の需要が拡大する「スーパーサイクル」に業界全体が沸いたこの数年、かつて半導体露光装置で世界をリードしたニコンは同装置事業の立て直しに腐心してきた。19年4月に就任した馬立稔和社長は「半導体装置事業の競争環境の厳しさは続く。収益性の重視が不可欠だ」と述べ、新事業の確立を優先する考えを示した。
この日発表した19年3月期決算は、売上高が前の期比1.2%減の7086億円、最終利益は91%増の665億円だった。15年に発表した中期経営計画を翌年に撤回し、19年3月までを構造改革期間と位置付けてきたニコン。技術畑出身で半導体露光装置事業に一貫して携わってきた馬立社長は同事業の構造改革をけん引し、黒字化に導いて社長に就いた。この間、希望退職制度による1000人超の人員削減など痛みを伴う構造改革もあった。最先端の露光装置の開発も縮小した。
半導体露光装置事業は19年3月期に2期連続の黒字を達成するなど事業基盤は安定したが、成長の芽は見えにくくなった。同装置市場ではオランダのASMLが圧倒的なシェアを誇る状況になり、光源にEUV(極端紫外線)を使う次世代の露光技術もASMLの独壇場だ。ニコンの特許をASMLなどが侵害しているとして起こした訴訟で一矢を報い、和解金約190億円を得ただけだ。
特定顧客の設備投資におけるニコン製装置のシェア拡大や、既存装置向けサービスの拡大などで売り上げは増える見通しだが、最先端の露光装置に見切りをつけては顧客開拓も進まない。かつて世界をリードした半導体露光装置事業は新しい中期計画では「安定的なキャッシュフローを生み出す事業」に位置付け直した。
デジタルカメラなどのニコンの中核である映像事業も想定以上の市場の落ち込みで成長戦略を描けない。代わりに成長エンジンと位置付けたのが、光で金属加工をする「光加工機」などの材料加工事業だ。生産自動化やマスカスタマイゼーション(個別大量生産)のニーズが高まる中で、ニコンが培った精密制御や光応用の技術を生かせるとみる。材料加工などの新領域に投資を集中し、21年度に最大200億円の営業利益を生み出すことを狙う。
全社の営業利益目標は、終わった期の実質的な営業利益から3.5%増の「700億円以上」とした。カメラや露光装置のコスト削減を続けながら利益を出し続け、新しい成長事業を生み出す。難しい挑戦が馬立社長のニコンを待ち受けている。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「1分解説」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?