スナヤン駅を過ぎた電車は地下から地上に出た。暗闇から一転して視界が開けると、車内からは「おー!」という歓声が上がった。ここから約10㎞、7駅先の終点まで電車は高架を走る。この区間は大林組、清水建設、東急建設が手掛けた。眼下の道路では車がごった返している。ジャカルタは世界でも有数の自動車の過密都市として知られ、多くの人が慢性的な渋滞に苦しめられている。「地下鉄ができたおかげで渋滞を避けて動けるようになった。素敵なことだ」と42歳女性のジャカルタ市民は話す。

アジアに広がるか、オールジャパンの都市鉄道

 ちょうど30分で電車は終点のルバック・ブルス・グラブ駅に到着した。駅名に東南アジアで急成長するライドシェア・配車大手のグラブの社名が付いているように、JMRTではいくつかの駅で命名権(ネーミングライツ)を公募し、その収入を運営費用に充てている。

 二重ドアを抜け、ホームに出て目についたのはトイレやエレベーターの位置を示す案内板だ。これも日本では当たり前だが、アジアでは珍しい。駅には授乳やおむつ替えができる施設やイスラム教徒向けの祈祷室も完備している。子どもが多く、イスラム教徒が大半を占めるインドネシアに合わせた仕様になっていた。

 駅の出入り口付近にはライドシェア・配車大手ゴジェックやグラブのバイクが何台も列をなして乗客を待ち受けていた。JMRTに乗っている間にスマートフォンのアプリで配車を依頼しておけば、駅から出た後もスムーズに移動できる。ライドシェアが定着していることを改めて感じた。

駅を得た乗客はゴジェックやグラブを使って目的地に向かう。
駅を得た乗客はゴジェックやグラブを使って目的地に向かう。

 JMRTは日本の官民が策定した都市鉄道システム輸出のための標準仕様「STRASYA(ストラシア)」を初めて採用した鉄道だ。ジャカルタの足として定着し、経営が軌道に乗れば、この仕様を武器にオールジャパンの都市交通システムが他のアジア都市に広がる可能性もある。

 ただ、各企業の開業までの道のりは決して楽なものではなかったようだ。たとえば基本設計が出来上がり入札も終わった段階で耐震基準が変更となり、各企業は設計を一から見直す必要が生じた。これによって手間やコストが跳ね上がったという。また4月17日の大統領選前に完成させたいとのジョコ大統領の意向を受け、工事は急ピッチで進めざるを得なかった。「ジャカルタMRTからの支払いが滞っている」との声も関係者から出ている。

 今年には現在の路線を北部へ約8㎞延伸する第2フェーズの着工が予定され、さらにその後は約32㎞の東西線を新設する計画もある。こうした新たな路線でもオールジャパンで挑めるか。今回と同様、課題を乗り越えて開業まで漕ぎつけることができるか。日本の都市鉄道システムの質が高いことは乗車して分かった。仮にジャカルタのMRTを一括して引き受けることができれば、その輸出に弾みがつくことは間違いないだろう。

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