4月30日、ドナルド・トランプ米大統領と野党・民主党指導部が2兆ドル(約220兆円)のインフラ投資法案の検討を始めることで合意した。会合に参加した民主党のナンシー・ペロシ下院議長とチャック・シューマー上院院内総務といえば、昨年末にもメキシコ国境に壁を作るか否かでトランプ大統領とテレビカメラの前で激しく意見を戦わせた人物(ワシントン・ポストの関連動画)。手のひらを返したような今回の「歴史的合意」は全米を驚かせた。

会合直後に記者たちの質問に答えるペロシ下院議長(左)とシューマー上院院内総務(写真=ロイター/アフロ)
会合直後に記者たちの質問に答えるペロシ下院議長(左)とシューマー上院院内総務(写真=ロイター/アフロ)

 同法案は、高速道路や橋、ブロードバンドネットワーク、送電網などのインフラに25年間で2兆ドルを費やすというもの。米国内の報道は早くも「2兆ドルもの金をどうやって捻出するか」に切り替わっており、トランプ大統領と民主党指導部も3週間以内に再び会合を開き、具体的な方針を決めるとしている。

 だが両者の意見はすでに割れている。民主党は増税を要求しているが、トランプ大統領は減税推進派とされる。会合後にホワイトハウス前で開いた会見でペロシ氏とシューマー氏は「(トランプ大統領と)今度こそ一緒に仕事ができそうだ」と満面の笑みで語っていたが、正念場はこれからと言えそうだ(MSNBCの関連動画)。

 とはいえ2020年の大統領選を目前に「結果」を残したい両者の思惑が合致した意義は大きい。現在の米国連邦議会は、上院の多数派は共和党、下院の多数派は民主党という「ねじれ議会」。その下院の代表であるペロシ下院議長と合意に至ったことで、ロシア疑惑などで揺れるトランプ政権が勢いをつける可能性もある。

 日本も人ごとではない。米国のインフラ整備は日本企業に多くのビジネスチャンスをもたらすからだ。

 中でも追い風が吹きそうなのが「自動車業界」だろう。今回のインフラ投資は、表向きには「すべての家庭にインターネット接続や豊富な電力をもたらす」(シューマー氏)ことを目的とするが、根底には、アジアや欧州に劣勢を強いられている次世代の交通システムで米国がさらに後れを取らないようにする狙いもある。

 今回の会合に出席したメンバーを見ても、トランプ大統領の意図は明らかだ。会合には民主党指導部やホワイトハウス関係者の他に、トランプ政権から2人の重要人物が参加していた。その1人が、昨年10月に自動運転に関する政府方針を出し、米国の次世代交通インフラのカギを握るとされるイレーン・チャオ運輸長官だった。ちなみにもう1人は、米通商代表部(USTR)のC・J・マホーニー次席代表だった。

 高速道路と橋の整備はそのまま自動車の走りやすさにつながるし、ブロードバンドはコネクテッドカーや自動運転車の普及に、送電網は電気自動車(EV)の普及に貢献する。

 なお、米国では今、地方(rural area)のインターネット接続の悪さが問題になっている。米ピュー・リサーチ・センターが18年2~3月に実施した調査によると、インターネット接続に「問題がある」と答えた人の割合は、都市部が43%(うち「大きな問題がある」は13%)だったのに対して、地方は58%(同24%)だった。

 もちろん、自動車業界だけではなく、インフラ整備そのものに日本の建設業界や通信業界が関われる可能性もある。トランプ大統領の政治生命をかけた2兆ドルの公共事業は果たして、日本に神風を吹かせるか。

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