日本は中国と協力して第3国でビジネス展開していく方針を既に示してきた。ただそれには条件もある。対象国の財政の健全性やプロジェクトの開放性、透明性そして経済性が担保されていることだ。特に各プロジェクトが金融機関にとって融資可能な状態かどうか、つまり「バンカブル」であるかどうかについて日本は重視している。
4月2日、日本貿易振興機構(ジェトロ)と中国国際貿易促進委員会(CCPIT)がタイの首都バンコクで開いたワークショップでも、日本側関係者は繰り返しプロジェクトが「バンカブル」であることの重要性を強調していた。「どこの国がいいとか悪いとかではなく、プロジェクトが成り立つケースを日中と当事国とが協力して探していく。その際に重要なのが、プロジェクトがビジネスとして成り立つか、バンカブルかどうかだ」。記者会見した経済産業省の石川正樹・貿易経済協力局長はこう話した。
ただ、どんな案件が「バンカブル」と言えるのか、どうすれば「バンカブルになるのか」、その基準は官民との間で、あるいは日本と中国、当事国との間で大きく異なる。
タイではバンコク近郊の3空港をつなぐ官民連携(PPP)方式の高速鉄道プロジェクトが進む。この地域の経済開発について陣頭指揮を執るカニットEEC事務局長は「資金の出し手として国際協力銀行(JBIC)に期待している」と話す。ただ、この案件に日本企業は事業者としては関わっていない。4月下旬、タイ国鉄(SRT)はタイの財閥チャロン・ポカパン(CP)グループと中国国有企業の中国鉄建(CRCC)などからなるコンソーシアムに開発を発注すると決めた。当初は日本企業も関心を示していたが、事業リスクが高く投資回収が容易には見込めないとして手を引いてしまった。JBICの関係者はプロジェクトに関心を持っていることは認めつつも「日本企業が参加していることが前提。現段階では何とも言えない」と口を濁す。
「おいしい」プロジェクトだけつまみ食いはできない
たとえプロジェクトの当事国からラブコールがあったとしても、リスクが高いと民間企業が判断したプロジェクトについて、政府系の金融機関が「バンカブル」と見なして資金を提供することはできるだろうか。またプロジェクトが大規模であればあるほど、回収にも相当の時間がかかる。日本企業が現場にいない状況で、そのリスクを政府系金融機関が長期に渡って背負うことに国民が納得するかという問題もある。
何より、中国は既に各国で鉄道や橋、道路、港、空港といった巨大なインフラを手掛けてきた。しかもプロジェクトがバンカブルであればあるほど、それは中国にとっても「おいしい案件」のはず。そこに日本勢が入りこむのは難しいかもしれない。
一方で、プロジェクトの透明性や財務の持続可能性に対する関心の高まりは、日本に新しい活躍の場を与えることにもなる。少なくとも東南・南アジアの国々は、日本を信頼できる国と見ている。その立場を生かし、日本の官民が一体となってプロジェクトを「バンカブルなものに仕立てる」役割を果たせれば存在感を発揮できるかもしれない。ただし、投資回収が見込めそうな一帯一路のプロジェクトに相乗りするといった消極的な姿勢では、そのポジションを手に入れることは難しい。中国勢と対等に渡り合える体制を作り、プロジェクトの立ち上げから積極的に関わって透明性と経済性とを確立していく、そんな難しい仕事が求められる。
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