アステラス製薬が4月25日に発表した2019年3月期決算は、売上収益が1兆3063億円と前期比0.5%増、コア営業利益も2785億円と過去最高益を更新した。国内新製品などの売り上げが好調だったことが主因。同日、記者会見した同社の安川健司社長は「コア営業利益、コア当期利益で過去最高を記録した」と胸を張った。

好調な業績を発表したアステラス製薬の安川社長(左)
好調な業績を発表したアステラス製薬の安川社長(左)

 最高益を更新したアステラスだが、足元の製品ラインアップを見ると、実は楽観視はできない状況にある。複数の主力級薬剤の特許が期限切れを迎えようとしているからだ。

 国内では、すでに気管支ぜんそく治療薬の「シムビコート」が3月に期限切れ。消炎鎮痛薬の「セレコックス」は今年11月、抗がん剤「タルセバ」も20年6月には特許が切れる。米国でも19年にタルセバに加え、頻尿・尿失禁治療薬の「ベシケア」や抗真菌薬「ファンガード/マイカミン」と特許切れが続く。

 医薬品では特許期間が満了すると、他の製薬会社が同じ有効成分で安価に製造、販売することが可能になる。特許切れ薬品に代わる新薬が出てこないと、収益への影響は避けられない。アステラスは今、まさに「パテントクリフ(特許の崖)」に差し掛かっているのだ。

 手をこまぬいているわけではない。19年3月期のコア営業利益は前期比で98億円増えているが、これは研究開発費を121億円削減した影響が大きい。実際、抗体と薬物の複合体医薬品への投資を縮小し、連結子会社である米アジェンシス社の研究活動を終了させている。他にも研究開発中の一部製品で開発を中止したものもあるという。

 一方で、同社は有望市場の再生医療分野に資金を投入する。万能細胞といわれるヒトES細胞由来の細胞薬を使って失明につながる眼病を治療したり、視力を回復させたりすることを目指す。世界の再生医療市場は2050年に38兆円に成長するとされ、このニーズを取り込もうとアステラスは米国に約140億円をかけて研究設備を建設している。

 研究開発で選択と集中を進め、厳しい経営環境下でも次代を担う収益の柱を作り出す。それがアステラスの戦略だ。ただ、19年以降のパテントクリフを乗り越えられなければ、こうした将来戦略の土台も揺らぐ。好決算だからといって悠長に構えてはいられない。アステラスにとって19年は勝負の年になりそうだ。

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