4月21日、スリランカの教会やホテルなど8カ所で相次ぎ爆発が起き、現地報道によれば、22日まで朝までに290人が死亡し500人が負傷した。犠牲者の数は今後も増える可能性がある。「なぜこんな悲劇が起きたのか。内戦が終結して以降は治安が良い国だと思っていただけに衝撃を受けている」と現地日系企業関係者は異口同音に語る。この事件を受け、ある日系企業は翌日22日の業務を見合わせたという。事実解明と治安回復が長引けば、企業の活動にも支障が出る恐れがある。

通信社の報道によれば、キリスト教徒や外国人を狙った国内のイスラム過激派によるテロとの見方が出ているが、現時点では定かではない。スリランカはかつて激しい内戦が続いたが、2009年には終結し、平和を取り戻している。近年は主流を占める仏教徒と少数派であるイスラム教徒、キリスト教徒とのあつれきが高まっているとの報道もあるが、現地関係者は「双方ともに少数派であるイスラム教とキリスト教の間に対目立った対立はなかった」と話し、「なぜ今回、教会とホテルが狙われたのか」と戸惑いを見せた。スリランカ当局は既に数人の容疑者を逮捕するなどして捜査を始めている。
まだ不明な点が多い今回の同時爆破テロだが、一つ確かなのは、今回の事件が危機にひんしているスリランカ経済をさらに窮地に追い込むことだ。
スリランカは慢性的な財政赤字が続き、対外債務の返済に窮している。その残高は2018年末で約520億ドルとGDP(国内総生産)の6割に上る。前政権が中国の融資を受けて巨大な空港や港をはじめとするインフラを相次ぎ建設した。これにより支払い余力を上回る借金がかさみ、通常予算の確保すら厳しい状況に追い込まれた。2017年末には地政学的に重要な場所にあるスリランカ南部のハンバントタ港を中国企業に99年間に渡り11億ドルで貸与することを迫られている。
主要な輸出品目は衣料品や農産物で産業の集積は進んでいない。そんな中、数少ない明るい分野が観光だった。2009年に内戦を終結させたスリランカの治安は大幅に改善。魅力的な遺跡や自然にも恵まれていたため、観光客は急増した。その恩恵を受け、観光収入は年間44億ドル(2018年)と9年で約13倍に増えた。2018年にスリランカを訪れた観光客数は233万人と前年比1割増えている。その内、約半数は欧米からの渡航が占める。
今回の同時テロはスリランカの数少ない成長産業に冷や水を浴びせた。その影響度合いはまだ見えないが、特に今回、教会が標的になったことで、欧米圏からの観光客は確実に減るだろう。これにより経済的な苦境がさらに深まり、国民の不安が増大、治安も同時に悪化するという負のスパイラルに陥る恐れもある。スリランカ政府の事実解明と治安回復が急務であると同時に、日本を含む各国が幅広い分野で危機にひんするこの国への支援を続ける必要がある。
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