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 フランス・パリのノートルダム大聖堂が火災に遭ってから1週間が過ぎようとしている。世界遺産として世界的にも著名な大聖堂が激しく炎上する様子がテレビなどで報じられ、世界的な関心が集まっている。火災現場にはマクロン仏大統領が訪れ、世界各国の首脳からお見舞いのメッセージも寄せられている。

 出火の原因特定には時間がかかりそうだが、いち早く動きがあるのが再建に向けた寄付の申し出だ。フランスの化粧品大手ロレアルと大株主は総額2億ユーロを、高級ブランド大手のLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンも大株主と共同で2億ユーロ(約250億円)を寄付することを表明した。その他にも企業経営者からの寄付などがあり、仏メディアによると既に寄付総額は8億ユーロ(約1000億円)に達した動きが、驚きをもって報じられている。

 大聖堂や教会にとって寄付とは何か。建築家は今回の火災をどのように見ているのか。40年以上、スペイン・バルセロナの世界遺産、サグラダ・ファミリア大聖堂の建築に携わり、欧州各地の多くの聖堂に精通する外尾悦郎氏に話を聞いた。

4月15日、フランス・パリのノートルダム大聖堂は激しく炎上した(写真:AFP/アフロ)

ノートルダム大聖堂の再建に企業経営者などから多額の寄付が集まり、仏メディアによると既に寄付総額は8億ユーロ(約1000億円)に達したとの報道があります。

外尾悦郎氏(以下、外尾氏):多額の寄付自体はたいへん喜ばしいことだと思います。デジタル技術や人工知能(AI)の発達で、建設技術が飛躍的に向上しており、想像より早く再建が進むかもしれません。

 しかし、これまでの雰囲気を見ていると気になることがあります。もともとノートルダム大聖堂は観光地ではなく、敬虔(けいけん)なカトリック教徒たちの祈りの場です。本来のノートルダム大聖堂の存在意義を問うことなく、ただ早く作り直せばいいという風潮になることを心配しています。

 火災の被害に遭ったことはたいへん残念ですが、世界各地の聖堂や教会をみると火災などと無縁に存在しているのは珍しいことです。今改めて、ノートルダム大聖堂を800年近く維持、存続させてきた人々の思い、歴史の重みを考えさせられます。

外尾悦郎(そとお・えつろう)氏
1953年福岡県福岡市出身。78年からスペインのサグラダ・ファミリアの建築に携わる。生誕の門にある15体の天使像と門扉を製作し、2005年に世界文化遺産に登録される。2013年、芸術工房監督に就任。伊フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フイオーレ大聖堂の聖書台も製作するなど欧州各地の教会建築に関わる(写真:永川智子)

サグラダ・ファミリアもスペイン内戦による被害や、放火による火災の被害などに見舞われてきた歴史があります。

外尾氏:はい。1936年に始まったスペイン内戦でサグラダ・ファミリアが被害を受け、私が彫刻家として働き始めた78年にもまだその痕跡は残っていました。放火による被害にも遭ったことがあります。そうしたなか、熱心な信者やバルセロナ市民たちの小さな寄付を頼りに細々と修復や建築を進めてきたのです。