新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の下で百貨店が軒並み休業する中、アパレル大手オンワードホールディングス(HD)と三陽商会が2019年度(いずれも20年2月期)の決算を発表した。両社ともに赤字で今期の出足も新型コロナで大打撃を受けている。EC(インターネット通販)にどこまでシフトできるかが復調のカギになりそうだ。
オンワードHDが10日発表した連結決算は、本業の国内外アパレル事業が振るわず、営業損益が30億円の赤字。店舗閉鎖に伴う特別損失と、将来の業績悪化を見込んだ繰り延べ税金資産の取り崩しが加わり、最終損益は521億円の赤字となった。売上高は2482億円と前年度比3%増えた。同65%の伸びを見せた食品やギフトなどのライフスタイル関連事業に救われた形だ。

14日に連結決算を発表した三陽商会は決算期を変更したため14カ月の合計で、売上高は688億円と計画比95%にとどまった。営業損益は28億円、最終損益は26億円、それぞれ赤字となった。主力ブランドだったバーバリーとのライセンス契約が15年に終了して以来、16年度(16年12月期)から4期連続で赤字が続いている。消費増税に加え、台風などの自然災害や暖冬も業績回復を妨げた。
両社ともに百貨店が主な販路で、今期の出足である3月は新型コロナの感染拡大による商業施設の営業自粛や消費者の外出自粛に大打撃を受けている。オンワードHDの保元道宣社長は4月13日の決算説明会で「実店舗の半分が休業しており、営業している店舗も来店客数は大幅に減少している。これまでに経験したことがないような大きな『事件』だ」と話した。
主力子会社オンワード樫山の売り上げは3月に前年同月比3割減。4月の店舗売り上げは12日までの累計で前年同期比7割減の水準にまで落ち込んでいる。三陽商会も3月の売上高は前年同月比45%減っており、「現在は主要な売り場の大半が臨時休業の状態」(同社)だという。
新型コロナの影響がいつまで続くか読めない中、両社は経営の重荷となってきた不採算店舗の閉鎖を急いでいる。オンワードHDは前期中に国内外で約700店を閉め、今期も同規模の店舗閉鎖を計画する。19年10月以前は国内外に約3000店を持っていた。今期中にほぼ半減することになる。三陽商会も今期中に最大150店を閉鎖する見込み。今年2月末の同社の店舗数は1060店だった。

厳しい状況の両社だが、ECに限れば好調に推移している。オンワードHDの19年度のEC売上高は前年度比30%増の333億円で、連結売上高の13%を占めた。オンワード樫山では今年3月のEC売上高が同45%増で、コロナ禍でECシフトが進んでいるとみることができる。オンワードHDが21年度までの目標としていたEC売上高500億円が前倒しで実現する可能性も出てきた。三陽商会も19年度は売上高の12%にあたる84億円をECで売り上げており、前年度比25%増となった。
オンワード社長「売上高の半分以上をECに」
両社は自社直営EC経由の売上高がEC売上高全体に占める比率が高く、7割を超えている。オンワードHDは18年末にいち早く「ZOZOTOWN」から離脱している。直営ECは運営会社にマージンを取られるモール型ECサイトでの販売に比べ収益性が高く、顧客管理にも利点がある。ECを軸に経営を立て直す条件は悪くない。
保元社長が「ECで連結売上高の半分以上を稼ぐ会社を目指す」と話すオンワードHDは、ECの売上高や全社売上高に占める比率、売上高の伸び率ともに三陽商会を上回る。オンワードHDはライフスタイル関連事業やオーダースーツに代表されるカスタマイズ事業など、アパレル以外の成長分野を持つため、店舗からECへの転換策を進めやすいようだ。
一方、アパレル専業の三陽商会は、新型コロナの影響を加味した再生プランでも不採算店舗閉鎖や粗利率の改善、販管費削減などが戦略の中心で、「EC売上高の具体的な目標は検討中」(同社)という。新型コロナの影響が長引けば、EC強化への温度差が中期的に明暗を分ける可能性もある。
三陽商会は3月、約6%の出資を受ける米運用会社RMBキャピタルから会社売却を検討するよう求められた。4月14日にはRMBが中山雅之社長を含む社内取締役全員の辞任を勧告した。同日、三陽商会は5月末の株主総会後に大江伸治副社長が社長に就任し、中山現社長は副社長に退く人事を発表した。そもそも市場が低迷していたアパレル業界は消費増税で構造不況の様相を呈していた。破壊的なダメージを与えているコロナ禍を構造改革の好機に変えられるかが問われている。
掲載当初、オンワード樫山の売り上げで「4月は12日までの累計で」としていたのは「4月の店舗売り上げは12日までの累計で」の誤りでした。「今年3月のEC売上高は同45%増」はオンワードHDではなくオンワード樫山の数字でした。本文は修正済みです。 [2020/4/17 12:20]
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「1分解説」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?