ANAホールディングス(HD)や日本航空(JAL)による航空券の返金が経営の重荷になっている。両社とも国内線では、ゴールデンウィークの5月6日搭乗分まで、手数料を取らず全額戻す「無償返金」の対応を決めている。そもそも航空会社の手元資金は、サービス利用者が先払いした代金に支えられている。新型コロナウイルスの感染が広がり、体力が失われるなかで無償返金はいつまで続くのか。

航空券の返金が財務面の大きな重荷になっている(写真=PIXTA)
航空券の返金が財務面の大きな重荷になっている(写真=PIXTA)

 ANAは4月14日、国内線の返金ルールを変えた。ゴールデンウイークの5月6日までの搭乗分について、いったん支払ってもらった代金は、手数料をとらずにすべて返すことにした。同社は「利用者からのご意見を踏まえた」と説明しており、ANAユーザーの要望が強かったようだ。

 払い戻す際の手数料には2種類ある。一つは「取消手数料」で、ANAの国内線では、早く予約して割り引かれた運賃の場合、搭乗する54日前からは約3割受け取る。搭乗日が近づくと手数料も上がり、13日前からは約6割になる。もう一つ、運賃の種類にかかわらず「払戻手数料」もある。

 通常のような手数料を取るか取らないかで、ANAは揺れた。もともとは一律で無償返金する方針だった。だが、3月にいったん、無償返金の対象について、購入時期などによる制限を設けた。直前のキャンセルが相次ぎ「減便の内容を決めるうえで参考にする需要が読めなくなった」という理由だった。それを再び、14日に変更して元に戻したかたちだ。JALは当初から無償返金の対応を取り続けている。

 無償返金はグローバルスタンダードというわけではない。米大手のデルタ航空やアメリカン航空、ユナイテッド航空は原則、無償返金を実施しない。搭乗する日程変更の手数料を免除したり、支払額と同額の旅行券を提供したりする対応にとどめている。仏蘭エールフランスKLMなど欧州各社も、同様の対応を取っている場合が多い。

 無償かどうかは別にしても、そもそも減便によって返金が拡大するという事態は航空会社にとって大きな打撃となる。航空代金は手元資金の大きな部分を占めるからだ。

 航空代金は、利用者が支払ったあと、実際に搭乗するまでは流動負債に計上される。名目はANAHDなら「発売未決済」、JALなら「前受金」だ。

 手元資金として流動資産に計上される現預金や短期有価証券は、ANAの場合、2019年3月期末で2936億円だった。このうち「発売未決済」は2189億円だった。単純計算でキャッシュの4分の3をまかなっている。JALは手元資金が5220億円で、「前受金」は4分の1にあたる1291億円だった。程度の違いはあるが、航空券代として入るキャッシュに頼っている。

 「返金によって事態がさらに悪化する」。3月末、国際航空運送協会(IATA)のアレクサンドル・ド・ジュニアック事務局長は警鐘を鳴らした。世界の航空会社の2020年4~6月期の純損失が計390億ドル(約4兆2000億円)に達すると試算している。苦境に拍車をかけるのが返金で、4~6月の期間に計350億ドルに達するとみている。

 ANAとJALは5月7日以降の搭乗について、無償返金を続けるかどうか明らかにしていない。多額の現金が流出していくなかで、空のインフラを維持していくため政府に巨額の融資枠を求めた航空業界。顧客にどう対応していくか、今後の焦点の一つになる。

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