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 自らの中を紙が通り抜けていく間に、微細なインクを吹き付けて文字や絵を描く。誰もが親しんでいるそんな「プリンター」のイメージを根底から覆すような商品が発売され、インターネットで話題が沸騰している。

 リコーが4月17日に発売する手で持つプリンター「リコーハンディープリンター」だ。まずは実際に印刷しているシーンをご覧いただきたい。

 プリンター自体を動かして、印刷したい物の上をスライドさせることで文字やイラストをプリントするという発想の転換だ。コピー用紙だけでなく、コピー機に通りにくいノートや封筒、段ボールなどにもモノクロ印刷ができる。データは「アンドロイド」のスマートフォンや「ウィンドウズ」のパソコンのアプリケーションを利用して、無線通信(ブルートゥース)かUSB経由でデータを送信する。

 リコーが発売を発表するとインターネット上では「ノーベル賞級」「予想していない感じの製品」など、新たなプリンターに驚きの声が上がった。

 開発に携わったオフィスソリューション開発本部の原田泰成さん(37)が初めて構想を持ったのは2013年まで遡る。通常は企画部門で顧客からの要望を基に開発部門にアイデアを伝えることが多いが、ハンディープリンターは逆だった。これまで同社が扱っていなかったモバイルプリンターで何か商品を作ろうと、原田さんが後輩と2人でアイデア出しを始めたのがきっかけ。パソコンの形がデスクトップからノートパソコン、タブレットへと変遷したのと同じようにモバイルプリンターも「スマホと同じようにできないか」と考えたことが原点だったという。「紙を通すのであれば、紙よりは小さくできない」ことから、プリンターを動かそうと早い段階で発想の転換に至った。

 共に取り組んだのはオフィスプリンティング事業本部で商品企画を担当する近藤友和さん(39)。別の業務を持っていたが、上司のつてで知り合った原田さんのアイデアに賛同し、仕事の合間を縫ってボランティアで開発に携わった。当時は顧客への営業にあたる「リコージャパン」への出向から帰ってきたばかりで、営業分野に知り合いが多く、原田さんと近藤さんは「最後の3分でも5分でも」と時間をもらって営業の客先訪問に同行。「手で動かせる夢のプリンターです」と資料を示しながら、ニーズのある商品設計を考えた。

 聞き取り調査は1年前の段階でも200社程度に上ったという。例えば訪問看護や介護であれば処置した部位について家族への連絡帳に残すため、身体のイラストをその場でプリントできればすぐに説明を書き込める。商品管理のために付ける段ボールのバーコードにラベルプリンターを利用していた物流業界などでも利用できる。聞き取り調査を進める中で、様々な「使われ方」の可能性が浮かび上がっていった。

 ハンディープリンターのカギはインク吐出面にあるセンサーだ。印字前に本体上部のスタートボタンを押すと本体の位置を認識し、印字する範囲が決まる。同じ場所で2度スライドさせても2度目は印字されず、どのような順番で本体をスライドさせても印字できる。

 開発の難易度は高かった。3カ月ごとに上司から事業継続可否の判断が下されるが、開発が進まない。企画側の近藤さんもこのまま潰すわけにいかないと「売れる可能性はある」と話して後押しした。「手で動かすプリンターだから、予想できない手の動きに追従できるようにしないといけない」とこだわったが、プリントした文字やイラストの線がうまくつながらない時代は長かった。

 展示会に出せるレベルになり、可能性が見えてきたのは会社から最後のチャンスとして与えられていた2017年の試作品だったという。

 2人は「前例が全くない商品で、正解がない。どこまでやったらゴールなのかは分からない」と話しつつも、今回の商品は「まだ道半ば」と話す。ようやく市場に出るハンディープリンターを利用した人からの意見や感想を次の改良品につなげたい考えだ。

 ハンディープリンターの2年間の販売目標は2万台、オープン価格だが5万円程度を想定している。

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