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 大日本住友製薬は2019年4月11日、2018年度から2022年度までの5年間の「中期経営計画2022」を発表した。2017年度の売上高4668億円、コア営業利益906億円に対して、2022年度の売上高6000億円、コア営業利益1200億円を目標に掲げた意欲的な計画だ。

 実はこの中計、本来は1年前に発表するはずだったが、同社の稼ぎ頭で年1900億円を売り上げる非定型抗精神病薬「ラツーダ」(ルラシドン)の特許を巡る訴訟を抱えていたことから公表を見送った経緯がある。ラツーダは2019年1月にも米国での特許切れを迎えるとみられていたが、大日本住友製薬は2018年2月、米食品医薬品局(FDA)に後発品申請を行っていた複数のメーカーに対して、用途特許の侵害訴訟を提起。2018年11月までにすべてのメーカーと和解し、和解に応じた各メーカーは2023年2月21日以降に後発品を販売できることになった。つまりラツーダの製品寿命は2023年2月まで、4年伸びたわけだ。

 このことは逆に、2023年度に1900億円の売り上げの大半が消滅することを意味する。このため大日本住友製薬は今回の中計で、「2023年度には減益の可能性がある」とも言及している。特許切れによる売上高の急減を、製薬業界では「パテントクリフ」と称する。従って、同社の中計では、このパテントクリフをいかに平たんなものにするかが課題となった。

 そこで打ち出したのは、借り入れも含めて3000億円から6000億円のM&A枠を設定し、新たな収益源を確保する方針。第1に2023年度以降の収益に貢献する精神神経領域の後期開発品目の獲得に優先的に資金を投じ、第2の優先的投資対象として2028年度以降の収益に貢献する重点3領域のパイプラインや技術の獲得に投資する方針を打ち出した。同社の重点3領域とは、精神神経、がん、再生細胞の3つ。「精神神経領域でラツーダに続く製品を育ててこられなかった反省がある。精神神経領域では現在米国で臨床試験を行っている統合失調症治療薬のSEP-363856に大いに期待しているが、(発売目標が2023年のため)2023年度から始まる次の中計期間中にはまだ大きく貢献するほどにはならないだろう。その空白を埋めるためにM&Aで後期の開発品を獲得する」と、野村博社長は説明する。臨床開発後期の品目は当然、早期の品目よりもお高いわけだが、それでも買いにいかざるを得ないのだ。

 癌領域では日米で臨床試験の最終段階であるフェーズIIIを実施中のナパブカシンの開発に力を入れる。2019年中に臨床試験データの解析を開始し、結腸直腸癌では2020年に申請して2021年の発売を狙う。続いて膵臓(すいぞう)癌では2021年に承認申請する計画だ。大型品に成長することを期待しており、中計最終年度の2022年度の売上高目標6000億円のうち、900億円はナパブカシンが稼ぎ出すことを想定している。

 再生細胞領域では、サンバイオと共同で米国で慢性期脳梗塞を対象に開発していたSB623が臨床試験のフェーズIIbで主要評価項目を達成できなかったことを2019年1月に発表している。将来的に1000億円程度の大型品になると見ていただけに痛手は大きいが、現在同社では、臨床試験の被験者を幾つかのグループに分けて解析することにより、有効性を示すグループが見つからないかを検討しているところ。野村社長は「解析にはまだしばらく時間がかかる」と述べ、あきらめてはいないことを明かした。

 実は大日本住友製薬は、日本の製薬企業の中でiPS細胞を利用した再生医療に最も投資してきた会社だ。iPS細胞由来の細胞医薬を用いたパーキンソン病の治療については、共同研究の相手である京都大学iPS細胞研究所などが医師主導の治験を行っており、同じくiPS細胞由来の細胞医薬を用いた加齢黄斑変性という眼科疾患の治療では提携先のヘリオスが企業治験を準備中。大日本住友製薬はこの両品目について2022年に発売する計画だ。その後、2023年度以降には網膜色素変性や脊髄損傷、腎不全などを対象とするiPS細胞由来の細胞医薬を発売し、2030年には日米で2000億円の売上高にする目標を掲げる。「患者自身の細胞を用いてiPS細胞由来の立体臓器などを作製するのが再生医療の究極だと思う。再生細胞領域では、日本だけでなく米国でも事業化を進め、2023年度からの次期中計期間中に収益に貢献することを目指す」と野村社長は語る。

 もっとも、ナパブカシンにしてもiPS細胞由来の細胞医薬にしても、計画通りに発売にこぎ着けられるかはまだ不透明だ。精神神経領域での次の収益源の確保も相手あってのことだけに、現時点では絵に描いた餅にすぎない。2022年度6000億円、コア営業利益1200億円という意欲的な目標は実現できるのか。社長就任1年目の野村社長の経営手腕が問われる。

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