選挙を心配する英議員

 小選挙区制という選挙制度も議員を保身に走らせている。もともと英下院議員はEU残留派が多いため、メイ首相は自身の穏健な離脱案が議会で可決されると見込んでいた。しかし、議員が週末などに選挙区に帰る度に、地元住民の強硬な離脱を望む声を聞くので、離脱の姿勢を強くせざるを得なかった。国全体というより、地元の意向を優先しているようだ。

 合意なき離脱になると北アイルランドの国境で通関手続きが必要になる。かつて3500人以上の死者を出した紛争が再燃する事態が恐れられているものの、どこまで多くの議員が北アイルランド問題を考慮しているかは疑わしい。インシアードのウェーバー教授は「強硬派は北アイルランドの紛争の歴史など忘れてしまっているのかもしれない」と話す。地元の意向を優先する議員からすれば、アイルランド国境問題は二の次になるかもしれない。

 そもそもボリス・ジョンソン元外相やジェイコブ・リースモグ氏などの保守党の著名議員は、舌鋒鋭くメイ首相を批判するものの、自らが首相に就くような動きは見せない。この状況下で首相になっても、交渉をまとめるのは至難の業で、批判の集中砲火を浴びるのは目に見えているからだ。

 野党の労働党も党内がねじれており、明確なメッセージをなかなか打ち出せなかった。議員にはEU残留派が多いものの、労働党の地盤の地域では離脱を支持する住民が多いため、党の方針が定まらずメイ首相の離脱案にただ反対するだけの状態が続いた。

 こうした議員たちの行動を変えさせるためには、巧妙な戦術が必要だが、メイ首相は直球勝負で自説を唱え続け、時間を浪費させてしまった。離脱日を10月末まで延期したとはいえ、リーダーを変えるか英議会のメンバーを変えなければ、英国政治の混迷を打開することはできないだろう。

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