政府が東京都など7都府県に7日発令した緊急事態宣言を受け、休業要請の対象となるサービス事業者が揺さぶられている。理容・美容業界では、国は原則、要請の対象外となる方針を示す一方、東京都は対応案の中で理髪を対象に含めるなど、線引きを巡って国と自治体の間で認識の違いが浮かび上がっているためだ。7都府県は休業を求める対象をまだ公表しておらず、各業界は慎重に対応を検討している。

 「社会的責任を第一に考えた結果だ」。ヘアカット専門店「QBハウス」を展開するキュービーネットホールディングスの担当者は、10日から当面の間、7都府県の店舗を休業させることにした理由をこう話す。理髪店を巡っては、休業すべきか否か、混乱のさなかにある。東京都は緊急事態宣言の発令前にまとめていた対応案の中で、理髪店を休業要請の対象としてきた。一方、安倍晋三首相は7日夜の会見で「理美容については国民の安定的な生活の確保のために事業継続することが必要なサービス」だとした上で「都知事と西村(康稔経済財政・再生)大臣との間で今、調整を行っている」と述べた。

「QBハウス」は10日から7都府県の全店舗で休業する(8日、東京都千代田区の「神田駅前店」)
「QBハウス」は10日から7都府県の全店舗で休業する(8日、東京都千代田区の「神田駅前店」)

 理髪店が休業要請の対象となりうる根拠は、改正新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)に関連する施行令だ。「理髪店、質屋、貸衣装屋、その他これらに類するサービス業を営む店舗」とある。施行令には要請の対象となる店舗について「建築物の床面積の合計が1000㎡を超えるものに限る」との但し書きがあるため、国の方針にそのまま従えば、ほとんどの理髪店が対象から外れる。だが、施行令に理髪店という言葉が入っているのは事実であり、感染者との接触が生まれる可能性もある。このため東京都は対応案のなかに入れたようだ。

 そもそも、理髪店という言葉の曖昧さが、事業者を揺さぶっている面がある。事業を行う上で必要な免許は理容師法、美容師法にもとづいており、法律上は理容師が働く店が「理容所」、美容師が働く店が美容所。「理髪」という言葉が「理容」を想起させるが、そうとは限らない。東京都内で人気サロン「ピーク・ア・ブー」を展開する大国屋(東京・渋谷)は、全9店がすべて美容所だ。該当するのかどうなのかわからないが、臨時休業を決めた。

 「基本的には自治体の対応に合わせることになる」。こう話すのは保育サービス大手、グローバルキッズCOMPANYの担当者だ。保育業界では施設が立地する自治体によって、対応が分かれることになる。東京都内では、渋谷区や中央区は保育所などの臨時休園を決めた一方、江戸川区や大田区は保護者に対し登園自粛を呼びかけながら開園することにしている。

 保育事業者は、休園となる地域で勤務している保育士を休ませるのか、それとも他の地域に回すのか。大手のポピンズホールディングス(東京・渋谷)は、需要が高まっているベビーシッターサービスで勤務させる可能性があるという。また「終息後を見据えたサービスの質向上に向けてeラーニングなどの研修を受けてもらう時間にする」と担当者は説明する。

 自治体ごとで対応に差が出ると、開園が認められている地域で人手不足に陥る保育所が出てくる可能性がある。渋谷区在住で大田区内の保育所に勤務する子育て中の保育士がいるとすると、この人は渋谷区内に子供の預け先がなくなる。自宅で過ごさざるを得ず、保育士を待っている大田区の園児たちに会えないことになる。

 介護分野では、施行令において、短期的に入所しリハビリなどの介護サービスを受けられる介護老人保健施設のほか、デイサービス(通所介護)、ショートステイ(短期入所)の施設が休業要請の対象になっている。サービスを通じた高齢者への感染リスクを警戒してのことだ。老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった長期入居型の施設や、訪問介護サービスの事業所などは対象外だ。

 SOMPOホールディングス傘下のSOMPOケア(東京・品川)は、サービスを続けられる長期入居型に強い。ただ、休業対象になりうるデイサービスやショートステイも手掛けている。それでも、現時点では「基本は運営を継続する」と説明している。「自治体と連携しながら休止を判断する可能性はある」としているが、介護は公共インフラだという思いが強い。介護大手を傘下に持つ学研ホールディングスも「事業の継続が前提だ」としている。感染リスクに十分な対応を取りつつ、サービスを止めないことが暮らしや命そのものに関わる。

 老人ホームは休業要請の対象から外れているが、施設の中では対象範囲に入るショートステイやデイサービスを並行して提供しているところも多い。事業者はどんな対応を取るか、まだ決め切れていないケースもある。

 最終的に、緊急事態宣言に基づく休業要請を出すのは都府県だ。都は10日に具体的な内容を発表するほか、6府県は現時点では休業要請を見送る方針を示している。

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