「交代はトカゲのしっぽ切りのようなもの。これまでもオーナーに歩み寄る姿勢は示したが、実現したことはなかった」。あるセブンイレブンのフランチャイズ(FC)加盟店オーナーは、4日に発表されたセブン―イレブン・ジャパンの社長交代を受けて、こう語った。

 セブン&アイ・ホールディングスは4日、セブン―イレブン・ジャパンの社長に永松文彦副社長(62)が8日付で昇格する人事を発表した。2016年から約3年間にわたり社長を務めた古屋一樹氏は代表権のない会長に退く。

 セブン&アイの井阪隆一社長は4日の記者会見で「社長交代の背景にあるのは24時間営業問題だけではない」と語り、フランチャイズ(FC)加盟店の現場の状況が経営層まで伝わりにくい組織構造を見直すことを社長交代の理由に挙げた。ただ「古屋氏の退任の構想はあったが、24時間営業の問題が大きくなったことで交代が早まった」(セブン&アイ関係者)

4月4日の記者会見に出席したセブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長(左)とセブン-イレブン・ジャパンの永松文彦新社長(右)(写真:竹井 晴俊)
4月4日の記者会見に出席したセブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長(左)とセブン-イレブン・ジャパンの永松文彦新社長(右)(写真:竹井 晴俊)

 今後は24時間営業の見直しの実験に加え、役員が各地の加盟店オーナーと話し合いの機会を持つなど、店舗ごとの事情を勘案した対策を進めるという。井阪社長によれば、既に直営店10店舗、加盟店2店舗が時短営業の実験に入っている。

 井阪社長が打ち出した今年度の方針で特に顕著なのが既存店への配慮だ。従来は設備投資費の約6割を新規出店の費用に充てていたが、今年度は6割強をセルフレジ導入など既存店の省人化・省力化に充てる計画とした。また、出店基準を厳格化し、出店数を昨年比539店減の850店に抑える。

 井阪社長が「ビジネスモデルの再構築」と語る構造改革を打ち出したのは、加盟店オーナーの不満が限界に達しつつあるからにほかならない。

 セブンイレブンは同じ地域に集中的に出店するドミナント戦略を推し進めてきた。ただ個々の加盟店にとっては客を近隣のセブンイレブンと奪い合うことになる。冒頭とは別のセブンイレブンのオーナーは「十数年前の開店当初から近隣のセブンイレブンとの競合が激しく、販売額は下がり続けている」と嘆く。

 さらに人手不足も深刻になり、従業員も奪い合いになっているという。「本部のドミナント戦略もありアルバイトを集めるのが難しい」(前出のオーナー)

 セブン-イレブン・ジャパン全店の平均日販(1店舗・1日あたりの販売額)は11年度には66万9000円だったが、18年度は65万6000円とほぼ横ばいで推移している。一方、最低賃金は全国の加重平均で同期間に100円程度上がった。人材確保のための求人費や研修コストも重くなり、加盟店オーナーの負担は増えている。

 4月5日の午前中には世耕弘成経産相がコンビニ各社の経営者を集め、加盟店オーナーの長時間労働の是正を求めた。法的な根拠のない要請という異例の措置だが、各社が自主的に問題を解決しない限り規制強化につながるおそれもあり、業界では緊張が高まる。コンビニは防災や防犯など社会的なインフラの役割も担うだけに、政府の危機感も大きい。

 実際にインフラの役割を果たすのは加盟店だ。しかしある加盟店オーナーは「公共料金の支払い処理や防犯のための『セーフティステーション活動』など、いつの間にか勝手にインフラとして扱われるようになり負担が増加した。来客は増加しても売り上げに結びつかない」と不満を口にする。

 求められるサービスや機能は次々に増し、人件費を中心とする経費も上昇する一方、販売額は伸びない。このような構造問題がオーナーの不満の背景にある。コンビニのFC契約や24時間営業は、以前から一部のオーナーなどが問題視していたが、人手不足と成長の鈍化で噴き出した形だ。

 あるオーナーは「古屋氏は鈴木(敏文)氏に似ている」という。古屋氏の退任は、鈴木氏が作り上げたコンビニというビジネスモデルの制度疲労を映し出している。そのビジネスモデルを再構築できるかは、FC加盟店オーナーの信頼を勝ち取れるかにかかっている。

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