米国では世界的な金融危機が大衆迎合主義を芽生えさせ、伝統的な価値への回帰を志向するトランプ大統領を誕生させる下地になったと言われる。同様に、国民に占めるイスラム教徒の割合が高い東南アジアの3カ国では、足元の景気減速や将来の成長に対する不透明感が、保守的なイスラム教への回帰という形で現れている可能性がある。豊かさを実感しにくくなれば必然的に国民の不満は高まる。経済の繁栄が覆い隠してきた社会的な分断があらわとなり、保守的なイスラムからすれば周縁に位置する性的少数者に不満の矛先が向かっているのではないか。
加えて、各国は政治的な不安要素も抱える。ブルネイでは国政全般を掌握する現国王が高齢化している。現地からは「年を追うごとに国王がイスラムへの回帰を強めており、それが今回の刑罰厳格化を招いた」という噂が広がっている。昨年5月に政権交代が起きたばかりのマレーシアでは、景気の減速を背景にマハティール首相の人気に陰りが生じている。そしてインドネシアは総選挙を間近に控える。再選が有力視されるジョコ大統領は「反イスラム的」という批判をかわすため、副大統領候補としてイスラム教の指導者を指名した。今後も景気の後退懸念や政治不安が払拭されなければ、各国の指導者が内向き志向を強める国民の支持を得ようと、大衆迎合的な動きを強めるかもしれない。
悲観的にならざるを得ないのは、各国の自助努力で経済を浮揚させるのには限界があるからだ。アジア開発銀行(ADB)は3日に発表した経済見通しで、米中の経済摩擦によりアジア新興国の成長が鈍化するとの懸念を示した。中国への依存を強めてきた各国がその方針を転換するのは容易ではなく、経済の手綱は中国と、これに相対する米国に握られている格好だ。大国間の経済紛争が、東南アジアの性的少数者を窮地に追い込む、そんな構図が透けて見えてきている。
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