キリンホールディングス(HD)は27日、都内で定時株主総会を開催し、非中核事業の売却や社外取締役2名の選任などを求める英投資会社からの株主提案を否決した。2カ月にわたる対立はキリン側の圧勝で幕を閉じたが、株主の外国人比率が3分の1を超えた今、IR(投資家向け広報)の手法を見直す必要がありそうだ。

 「当社の中長期的な事業戦略に対して多くの株主様のご理解を得られた結果だ」。キリンHDの磯崎功典社長は27日、午前10時からの定時株主総会後、記者会見を開き、こう勝利宣言をした。

 キリンHD株の2%を持つ英投資会社フランチャイズ・パートナーズ(FP)が、1月中旬に提出した株主提案を巡り、両社は対立してきた。FPは、医薬や健康などの非中核事業を売却し6000億円を上限とする自社株買いをすることや、社外取締役2人の選任などを要求。世界のビール大手の戦略を引き合いに出し、ビール事業に集中することが企業価値の最大化につながると主張した。

 磯崎社長が推し進める医薬・健康分野への多角化戦略に真っ向から反対し、取締役会が経営戦略を客観的に検証できていないとして、コーポレートガバナンス(企業統治)の不備を指摘していた。

3月27日、定時株主総会後に内容を報告するキリンホールディングスの磯崎功典社長
3月27日、定時株主総会後に内容を報告するキリンホールディングスの磯崎功典社長

 これに対し、キリンHDは2月14日、取締役会で全会一致でFPの株主提案に反対することを決議。独自に社外取締役候補者も立てた。定時株主総会での“決戦”を目指し、双方がそれぞれ記者会見を開いたり、ホームページ上で互いの主張に対抗する意見を掲載したりしてきた。

 結果は、キリンHDの圧勝に終わった。FPが要求した自己株取得について、株主の賛成比率は8%。社外取締役の選任については、日本のコーポレートガバナンスコードの策定に携わったニコラス・ベネシュ氏が35%の賛成票を集めたものの否決に終わった。一方、会社提案の4人の新任社外取締役は、88~96%と高い賛成比率を獲得。磯崎氏も97%と、15年3月の社長就任時の定時株主総会での78.8%と比べても、高い賛成比率を得た(賛成比率は、いずれも速報値)。

 この結果を受けて磯崎社長は、「ヘルスサイエンス事業は、未来の経営を支える(ビール・飲料に続く)第3の柱。新型コロナウイルスの感染状況を見るまでもなく、今後ますます顕在化する健康に関する社会問題に対応すべく、創業以来続けてきた発酵バイオ技術を活用し、既存事業とのシナジーを創出しながら、グループの経営資源を最大限活用して成長させていきたい」と改めて強調した。

 一方、FPのハッサン・エルマスリーCEO(最高経営責任者)は、新型コロナの影響で来日できず、FP側関係者が会場に姿を見せることはなかった。エルマスリーCEOは、「株主提案が否決されてもキリン株を売却するつもりはない」と明言している。FPの広報関係者は、「今後の対応について早急に協議する」と話す。

 株主総会での決議を終えて、FPとの対立はいったん幕を引いた形だが、キリンHD側にも多くの教訓が残った。グローバル展開を進めてきた同社の株主のうち、いまや34%を外国人が占める。キリン内部からは「FPへの対応は初めての経験ばかりだった」との声が聞かれる。

 磯崎社長は、「FPからの提案やその他株主のご意見を受け、経営戦略の正当性・実効性を市場に対してきちんと説明していくことの重要性を認識した」と話す。日本のIRの常識に捉われず、数字の裏付けを伴った丁寧な説明がこれまで以上に求められる。

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