(6)東京が封鎖された場合、経済への打撃はどの程度?

 野村総合研究所は3月26日、東京都がロックダウンされた場合の経済への影響についての概算を発表した。

 仮に1カ月に渡って首都が封鎖された場合、日本全体の個人消費を2.49兆円減少させ、日本の1年間のGDP(国内総生産)を0.44%押し下げると試算し、「1カ月のロックダウンであったとしても、それによって失われる需要は東京五輪延期が2020年のGDPに与える影響を上回る計算だ」とした。

 野村総研は、人の移動が厳しく制限される場合に最も顕著な影響が現れるのは個人消費だとし、逆にリモートワークなどが採用されたとしても企業による設備投資などは相対的に維持されやすいとした。

 その上で、2019年の家計調査統計の中から、ロックダウン下でも変わらずに消費される可能性が高い項目を抽出した(カッコ内は消費全体に占める構成比)。食料・飲料(25.4%)、家賃(4.3%)、高熱・水道(7.4%)、医療サービス(2.6%)、通信(4.5%)の計44.2%は維持されるとして、残りの55.8%の大部分が一時的に支出されないと仮定して試算している。

(7)全国の都市が封鎖される可能性はある?

 爆発的な感染拡大が各地で始まったり、それが予見されたりする場合、封鎖される地域が広がる可能性はある。イタリアは3月8日に感染が集中している北部を封鎖したが、10日には全土封鎖に踏み切った。フィリピンも3月15日にマニラ首都圏を封鎖すると、その2日後にはマニラを含むルソン島全体を封鎖した。

 米国では20以上の州が独自の判断で外出を規制する措置を取っている。仮に東京都が封鎖に踏み切った場合、周辺の自治体が歩調を合わせて同様の封鎖に乗り出す可能性はあるだろう。

 26日には東京と神奈川、千葉、埼玉、山梨の1都4県が不要不急の外出を自粛するようにとの共同メッセージを発表している。13日には新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案が可決し、首相が地域と期間を定めた上で緊急事態宣言を発令できるようになった。感染が拡大している地域に宣言が出され、外出規制や娯楽施設の営業停止などが実施される可能性はありそうだ。

 欧州やアジアでは一部都市ではなく、全土の封鎖に踏み切る国が増えている。欧州ではイタリアを始め英国、フランス、スペインなどが、アジアではインドやマレーシアなどが全土封鎖に踏み切った。インドもイタリア同様に、当初は感染が発生した地区に限って封鎖を実施したが、これだけでは感染拡大は防げないと判断し、数日後には封鎖範囲を全土に広げた。現状で日本がいきなり全土封鎖に踏み切るとは考えにくいが、感染の拡大に歯止めがかからず、一部地域を封鎖しても効果が限られるようであれば、封鎖範囲を広げざるを得なくなるだろう。

 部分的な封鎖には弱点もある。タイでは首都バンコクの商業施設や娯楽施設を封鎖した結果、職を失った出稼ぎの地方出身者や外国人労働者が故郷を目指し大挙してバンコクを離れる動きが起きた。感染者が各地に散らばることを恐れた当局は住民に都内にとどまるよう要請したものの流れは止まらず、政府は非常事態宣言を出すことを迫られた。

 封鎖が実施される前に多くの人々が脱出を図ろうと動き出したり、封鎖後も域内から出る人が続出すれば、感染拡大のリスクはかえって高まり、より強力な封鎖や全土封鎖が現実味を帯びる。

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