資本の力を薄める方策は尽きていた

 思えば、デサントは時間がたつにつれてどんどんと不利な情勢に追い込まれていた。伊藤忠が5割ものプレミアム(上乗せ価格)をつけてTOBを始めると発表、TOB成立が確実視されてからはもはや打つ手なしだった。せめてTOB期間中の幻の和解案にのれば、もう少し発言権を残しておくことができたかもしれない。

言い分を飲ませた格好の伊藤忠の岡藤正広会長(写真=ロイター/アフロ)
言い分を飲ませた格好の伊藤忠の岡藤正広会長(写真=ロイター/アフロ)

 そもそも資本面で圧倒的に有利に立つ伊藤忠を相手に、石本社長が勝つとすれば資本面での対抗策、つまりホワイトナイトを用意するしか、手立てはないはずだった。ただ昨夏のワコールホールディングスとの包括提携は、石本社長が当初思い描いた資本提携までは発展させられなかった。ほかにも多くの企業に水面下で資本提携の声掛けをしていたが、なかなか実を結ばなかった。

 デサントが「奥の手」として温めていたものの、伊藤忠の怒りを買い敵対的TOB開始のきっかけとなった米投資ファンド、ベインキャピタルと組むMBO(経営陣が参加する買収)にしても、当時3割を保有する伊藤忠の賛同なしには成立しづらいことは目に見えていた。

 ベイン案も実は上場廃止後に引き続き伊藤忠が3割を持つ株主として残る内容。つまり、伊藤忠の資本の力を薄める方策は昨年のうちから事実上、尽きていた。

 そういう意味では1月末に伊藤忠が5割ものプレミアムをひっさげたTOBを表明した時点で完全に「勝負あり」だった。資本面で決着がついたのにここまで抵抗を長引かせたのは、社内に徹底抗戦派が多くいたこともあるが「石本社長が決断できなかった。迷走としか言いようがない」(デサント社内関係者)との声も漏れる。

 いずれにしろ石本社長は6月の定時株主総会後に社長の座を降りる。解任ではなく、形式上は両社の協議・合意のもと去ることができる、というのがせめてもの救いか。

 石本社長の戦いは終わりを迎える。だが、伊藤忠にとっての「デサントの企業価値を高める」という戦いはむしろこれからが本番だ。まずは国内従業員の9割がTOB反対に署名したという事実を重く受け止め、人心融和から始めることが必要だろう。

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