デサントと伊藤忠商事の主導権を巡る争いが決着した。デサントは25日、伊藤忠の小関秀一専務執行役員を社長に迎えると発表、創業家出身の石本雅敏社長が退任に追い込まれることになった。昨年から続いた泥仕合にようやく終止符が打たれることになるが、最初から最後までデサントにとっては勝機の見出しにくい戦いだった。

退任が決まったデサントの石本雅敏社長(写真=水野 浩志)
退任が決まったデサントの石本雅敏社長(写真=水野 浩志)

 日本では異例の敵対的TOB(株式公開買い付け)の結果、デサント株の保有比率を3割から4割に引き上げることに成功した伊藤忠。デサントの2位株主で7%弱の株を握る中国の安踏体育用品(ANTA)も味方につけ、株主総会になれば現経営陣を容易に退任に追い込める立場に立った。

 そしてTOB成立後に両社が再開した交渉は、もはや交渉ではなかった。資本の論理で圧倒的優位にたった伊藤忠が、一切の妥協をしなかったからだ。

 伊藤忠はデサント現経営陣の刷新を意図してTOBを始めるにあたり、取締役構成案としてデサント・伊藤忠・社外を「2:2:2」とする案を当初示した。だがTOB期間中の和解案で、伊藤忠は自社から出す取締役を1人に減らす案を提示し両社は妥協しかけていた。

 最終的にはデサントが譲歩しきれず和解は不成立、TOBが成立した。TOB成立後、石本社長は臨時株主総会で自らを含む経営陣が解任されるのはなんとか避けようと、再び伊藤忠と交渉を重ねた。その結果が、25日に発表されたTOB当初の伊藤忠案丸呑みだ。石本社長はもう一度和解案を復活させようとしたが、TOB成立で現経営陣の生殺与奪権を完全に握り、状況を一段と有利にした伊藤忠としては、もう妥協する意味がなかった。

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