タイで実質8年ぶりとなる総選挙が3月24日、実施された。2014年のクーデターで誕生した軍事政権が重い腰を上げ、ようやく実現した民政復帰への道を開く選挙だ。北部、東北部の農民層や都市部の低所得者層の支持を集めるタクシン元首相派の政党や、軍政の延命を狙う親軍政党、そして都市部エリート層の支持を受ける民主党などが下院の500議席(小選挙区350議席、比例区150議席)を争った。

タクシン元首相派のタイ貢献党の事務所で結果を見守る支持者
タクシン元首相派のタイ貢献党の事務所で結果を見守る支持者

 24日夜、開票率93%の時点で選挙管理委員会が公表した主要政党の得票数によると、親軍政党の国民国家の力党が約764万票でトップを走り、タクシン派最大勢力のタイ貢献党が716万票で追いかける展開になった。現地メディアの速報ベースでは、親軍政党とタイ貢献党がそれぞれ130議席超を獲得し拮抗する見通しだ。選挙前の予想を覆し親軍政党が躍進した。

 これにタイ貢献党は衝撃を受けた。24日の夕方から深夜にかけて速報が相次ぎ出されるたび、党事務所を重苦しい空気が覆い始めた。選挙速報を流すテレビの前で声援を送っていた支持者の声も徐々に小さくなり、最後は無言で次々と家路についていく。ある支持者は「貢献党の大勝利を疑っていなかった。ショックを受けている」と口数少なく語った。

 人口に占める割合の多い農民層の支持を受けている背景から、タクシン派はこれまでいくつもの選挙で大勝し、「常勝軍団」とも呼ばれてきた。2011年の総選挙でも過半数となる265議席を確保している。しかし今回は勢いのかげりが見える。単独過半数には届かず、友党と連立しても過半を超えられない可能性がある。

 今回の選挙でタクシン派が政権を奪回するには、過半を大きく超える議席を確保する必要があった。軍政が親軍政党に有利なルールを定めていたからだ。選挙後に実施される予定の首相指名選挙では、下院議員500人に加えて軍政が任命した上院議員250人も加わり、両院合わせて過半の支持を得た候補者が首相の座に就く。

 つまり上院議員を頼みにできる親軍政党は、下院で126議席を確保できさえすれば、彼らが首相候補として推す軍政のプラユット暫定首相を続投させられる。一方、軍と敵対関係にあるタクシン派は下院で376議席以上を獲得しなければ自派閥から首相を出せない状況だった。

タイ貢献党幹部は24日深夜、厳しい表情で会見に臨んだ
タイ貢献党幹部は24日深夜、厳しい表情で会見に臨んだ

 24日深夜、党事務所で会見したタイ貢献党のプーンチャイ事務局長は「国民の判断は尊重しなければならない」と厳しい表情で語りつつ「(親軍政党の)国民国家の力党は選挙に勝つためになりふり構わず金をばらまいた」と批判を繰り広げた。

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