2019年の春季労使交渉(春闘)が13日、集中回答日を迎えた。トヨタ自動車が組合要求を下回る賃上げ額を回答するなど、景況感の悪化を受けて前年実績を下回る水準で妥結するケースが目立った。

前年割れの回答が相次いだ19年の春季労使交渉(写真:共同通信)
前年割れの回答が相次いだ19年の春季労使交渉(写真:共同通信)

 春季労使交渉が本格的にスタートしたのは1955年。炭坑や電機、化学、金属など産業別の8労組が低賃金打破のために共同歩調を取ったのが始まりだ。その後も公務員の労組や鉄鋼労連などが参加して、「統一闘争」としての形が整っていった。

 「暗い夜道を一人で歩くのは不安。だからみんなでお手てつないで進めば安心」──。春闘の意義について、かつてこんな比喩が使われていたという。賃金を抑制したい経営側と交渉するには、労働界が一体となって統一要求を掲げた方が得策、というわけだ。

 実際、その影響力は大きかった。当初は国鉄や私鉄などの産業別労組が「交通スト」戦術で引き出した回答が「春闘相場」をリード。高度経済成長期には物価をベースに賃上げ水準を労使交渉で決めるスタイルが定着していった。

 そんな春闘への社会的な関心は今や高いとはいえない。「大企業に勤める正社員の話でしょう」。こう話すのは30代のスタートアップ経営者。その大企業に勤める40代の正社員も「組合活動にかかわっている人以外は、あまり関心がないんじゃないか」と話す。

 関心が薄れる理由は少なくとも3つある。

 1つ目はバブル崩壊後から続く日本経済の低迷。デフレ環境下では労組側は大幅な賃上げを求めにくく、要求も控えめになりがちだ。これでは春闘そのものが盛り上がらない。

 2つ目は賃金相場のリード役の影響力の低下だ。近年はトヨタ自動車がリード役を果たし、主要企業の一斉回答でも自動車や電機など製造業の動向が焦点となっている。だが、産業別就業者数(18年平均)を見ると、1072万人の卸売業・小売業が、1060万人の製造業を上回っている。就業者数の多い卸売業・小売業が賃金相場のリード役を果たさないと、賃上げの波及効果は限られてくる。

 3つ目は働き方の多様化だ。今や雇用者数の4割弱を非正規の職員・従業員が占める時代だ。女性や高齢者が働く場も増えるが、こうした人たちはそもそも労組に加入していないケースが多い。かつて50%を超えていた労組の推定組織率(働き手に占める組合員の割合)も18年6月末時点で17%。組合員の数が減れば、それだけ労組の影響力も弱まる。

 産業の高度化で、様々なスキルや経験が求められる仕事が今後も増えていく。働き方は今以上に多様化し、フリーの立場で仕事を請け負う人も多くなるだろう。製造業の大企業の正社員が中心という今の春闘のやり方を続ける限り、世の中の共感を得るのはますます難しくなるかもしれない。

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