「少し補足させてほしい」
3月12日夕に開かれた仏ルノー・日産自動車・三菱自動車3社連合(アライアンス)首脳による記者会見。開始から1時間が経過し、終盤に差し掛かった頃だ。「アライアンス・オペレーティング・ボード」と呼ぶ新会議体の議長に就任するルノー会長のジャンドミニク・スナール氏は、日産の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)の話が終わるや否やマイクをつかみ、こう切り出した。

「(アライアンスの新体制に対する)ルノーの社員の反響が素晴らしく良い。日産自動車や三菱自動車でも同じだと思う。会社を構成するのは人材だ。従業員が幸せで、それが良い方向だと受け止めてくれれば、(アライアンスの)勝利は目に見えている」
「3社には素晴らしい従業員がそろっている。才能豊かな従業員がそろっている。彼らが才能や文化を共有することで、大きな新しい波を作り出せる。だから私は、アライアンスの将来を楽観視している」
スナール氏がアライアンスのトップとして日本で会見を開いたのはこれが初めて。その重要な場面でスナール氏が自ら日仏の従業員への思いを口にした意味は大きい。
昨年11月の日産元会長のカルロス・ゴーン氏の逮捕は、少なからず多くの日産社員たちに衝撃を与えた。「我々を食い物にしていたのか」(日産社員)。そんな怒りの声が広がる中、社員たちはスナール氏の会見での発言に注目していたはずだ。
「前向きな印象を持った。アライアンスを良い方向に導いてくれると感じた」。ある日産幹部は会見後、こう満足そうに話した。
早くも日産社内の心をつかみ始めているスナール氏。その姿から記者が思い出したのは、2016年5月に目撃したあのシーンだ。
燃費データの測定違反でスズキが開いた記者会見。同社の鈴木修会長は会見が終盤になると、「これだけは言っておきたい」とばかりに話し始めた。
「いろんな不正が、(社員たちの)誤解と間違いがあって積み重なって、大きな国の規定に反した不正をしでかした。小さな不正が積み重なったと私は理解している。そういう点で国の規定通りにやるということをまず見直す、直そうということを末端まで正確にやっていく。きちんと整備をしてまいりたいと思う。不正をお詫び申し上げると同時に、ご理解をいただき、信頼回復に応えることをやっていきたい。どうぞよろしくお願いします」
こう言って、深々と頭を下げた。ゆっくりと言葉をかみしめるように話す「修節」。文面だけみると伝わりにくいが、その場にいると、鈴木会長の社員をかばう思いが伝わってきた。「社員は誤解と間違いから小さな不正を積み上げてしまったけれど、責められるべきは、社員にそうさせてしまった経営者」と。これは後日談だが、そんな会見での鈴木会長の姿に、涙を浮かべる社員もいたという。
社員の心に訴えかけるスナール氏の発言は、この時の鈴木会長に重なる部分があった。修節ならぬ「スナール節」。今後も3社の従業員たちの心をつかみ続け、アライアンスを一つにまとめられるか。
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