新型コロナウイルスの感染拡大による移動需要の減退が、航空会社の経営を直撃している。中国や韓国など特定の国からの渡航を制限する施策が各国で広がっていることも追い打ちとなり、世界中の航空会社が需要縮小を背景とした大幅な減便を迫られている。5日には新型コロナにより1130億ドル(約11兆8000億円)に上る損失が航空業界で発生するとの予測も発表され、関係者に衝撃を与えた。

 足元では各社が輸送能力の削減とリストラを迫られている。香港に本拠を置くキャセイパシフィック航空は11日、「旅行需要が大きく減少しており、2020年上半期は相当な損失が生じる見込み」だと発表した。ロイター通信の報道によれば、キャセイは3~4月の輸送能力を3分の1まで削減しているが、今月初めの乗客数は例年の2割にも満たず、縮小した座席数すら埋められない状況に直面している。

香港国際空港に並ぶキャセイパシフィック航空と子会社、香港エクスプレス航空の航空機(写真:AP/アフロ)
香港国際空港に並ぶキャセイパシフィック航空と子会社、香港エクスプレス航空の航空機(写真:AP/アフロ)

 10日にはオーストラリアの航空最大手カンタス航空が国際路線の輸送能力を9月まで23%削減すると発表。保有する38機の機体の運用を見合わせ、アラン・ジョイス最高経営責任者(CEO)は6月まで無報酬に、そして全従業員に休暇の取得を促している。さらにロイター通信の同日報道によれば、大韓航空は国際線の輸送能力の8割以上を削減することを迫られ、145機ある旅客機のうち約100機を運用できなくなっている。報道によれば「状況の悪化に歯止めがかからなければ、会社の存続を保証できないところまで追い詰められるかもしれない」と同社トップが従業員に伝えている。

 「ざっくり言えば、現在、東アジアの航空会社は8割、欧州では5割、東南アジアでは3割ほどの減便を迫られている」。航空産業に詳しいタイ大手銀、カシコン銀行傘下のカシコン・リサーチ・センターのシワット・マネージングディレクター代理はこう指摘する。

 新型コロナの感染拡大による需要減退は欧州にも波及した。5日にはイギリスの航空会社フライビーが破産を申請している。燃料費高騰などを背景に業績が悪化していたところ、新型コロナの感染拡大が追い打ちをかけるように旅客を減らし、事業が立ち行かなくなったという。

旅客収入の2割が吹き飛ぶ恐れ

 国際航空運送協会(IATA)は5日、新型コロナの感染拡大の影響により、航空会社の旅客事業に1130億ドル(約11兆8000億円)の損失が発生する可能性があるとのリポートを発表した。昨年12月に同協会は2020年の世界の旅客収入が5810億ドル(約60兆8000億円)になりそうだと予測している。これに今回の新型コロナによる損失を当てはめると、世界の旅客収入の約2割が消失する計算になる。

 IATAは発生から収束までに6~7カ月を要したSARS(重症急性呼吸器症候群)の推移と、新型コロナ発生後の中国市場データを用い、2つのシナリオで航空会社の旅客事業に対する新型コロナの影響の度合いを予測した。

 一つは3月2日の時点で100人以上の感染者が確認された国と、その周辺市場に限って影響を測る限定型、もう一つは感染者10人以上の国も含めて予測する拡散型だ。前者であれば損失額は630億ドル(約6兆5000億円)に、後者の場合は1130億ドル(約11兆8000億円)に膨らむ。後者では中国や韓国、日本、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポール、オーストラリアの旅客数が平常時に対し23%減少し、各国で合わせて497億ドル(5兆2000億円)の損失が発生する。また北米での損失額は211億ドル(2兆2000億円)、欧州では単純合算で439億ドル(約3兆9000億円)に上るという。

 新型コロナの経営に対する打撃の大きさは航空会社によって当然異なるが「レガシーコストが相対的に大きいフルサービスキャリアの方が、格安航空会社(LCC)よりも需要減退の影響を強く受けるかもしれない」と上述のシワット氏は指摘する。フルサービスキャリアは余剰人員を多く抱えており、航空機もリースでなく自社で所有する傾向があるため固定費が重いからだ。

 一方、LCCも経営破綻のリスクからは逃れられない。効率は高い反面、大手フルキャリアほど経営に余力はなく、リストラの手段も限られる。また経営が悪化した場合、大手フルサービスキャリアに比べて国や政府の支援が望みにくいという側面もある。

 もっとも、今回の新型コロナが航空業界にもたらしている災禍は、フルキャリアやLCCの別を吹き飛ばすほどのインパクを持ち、あらゆる航空会社に瀬戸際の危機対応を迫る。これまで経験したことのないショックに各社は耐えられるか。2010年、日本航空の破綻の引き金になったのは2008年のリーマン・ショックだったが、その背景には脆弱な経営基盤や高コスト体質があった。今回は世界の航空各社が、経営の強靭(きょうじん)さを新型コロナに試されている。

 この試練に耐えられない場合、国を代表するナショナルフラッグキャリアやそれに次ぐ規模の航空会社は政府による債務保証や公的資金の注入といった救済の対象に、そして規模が比較的小さいLCCなどは再編の対象になるだろう。新型コロナがどこまで航空会社を追い詰めるのか、現状では見通せないが、少なくとも従来の産業構造と勢力図を、これが一変させることは間違いなさそうだ。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「1分解説」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

12/15ウェビナー開催、「外食を救うのは誰か」第1回――すかいらーく創業者の横川氏が登壇

 新型コロナウイルスの感染拡大から3年目となり、外食店に客足が戻りつつあります。一方、大手チェーンが相次ぎ店舗閉鎖を決定するなど、外食産業の苦境に終わりは見えません。どうすれば活気を取り戻せるのか、幅広い取材を通じて課題を解剖したのが、書籍『外食を救うのは誰か』です。
 日経ビジネスLIVEでは書籍発行に連動したウェビナーシリーズを開催します。第1回目は12月15日(木)19:00~20:00、「『安売りが外食苦境の根源だ』ファミレスをつくった男が激白」がテーマです。講師として登壇するのは1970年にファミリーレストラン「すかいらーく」1号店を開業した横川竟氏と、外食経営雑誌『フードビズ』の神山泉主幹です。書籍を執筆した記者の鷲尾龍一がモデレーターとなり、視聴者の皆様からの質問もお受けします。ぜひ、議論にご参加ください。

■日程:12月15日(木)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「安売りが外食苦境の根源だ」ファミレスをつくった男が激白
■講師:横川竟氏(すかいらーく創業者、高倉町珈琲会長)、神山泉氏(外食経営雑誌『フードビズ』主幹)
■モデレーター:鷲尾龍一(日経ビジネス記者)
■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
■主催:日経ビジネス
■受講料:日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料となります(いずれも事前登録制、先着順)。有料会員以外は3300円(税込み)となります。
※第2回は詳細が決まり次第ご案内します。

>>詳細・申し込みはリンク先の記事をご覧ください。