「職務記述書(ジョブディスクリプション)」に基づいて、それぞれのポストの役割と報酬を決める「ジョブ型」の雇用モデルへの転換を目指す日立製作所。すでに管理職では同モデルを取り入れているが、約10万人いる国内の一般社員に広げられるかが課題だ。3月11日に集中回答日を迎えた春季労使交渉(春闘)ではどこまで議論は深まったのか。日立の労務担当役員が総括した。

「遅くとも2024年度には定着させたい」。一般社員へのジョブ型への転換について、日立のCHRO(最高人事責任者)を務める中畑英信執行役専務は3月11日、こう話した。
日立でジョブ型への転換が労使で話し合われるようになったのは17年から。今年の春季交渉でも主要な論点の1つと位置づけ、「交渉の半分ぐらいの時間をジョブ型の議論にあてた」と中畑CHROは話す。
導入時期について、これまで明確な目標を示していなかったが、この日、次の中期経営計画の最終年度にあたる24年度にジョブ型の人材管理への転換と、それに必要な意識や行動の定着を終えたいとの見通しを示したかたちだ。
20年度からは一般社員の職務記述書の作成に着手。まず4部門で先行し、その成果を踏まえて全部門に広げる段取りだ。中畑CHROは「20年度はジョブ型のスタート地点になる」と強調する。
管理職では13年度にジョブ型への移行を始めた日立。全世界の管理職5万ポジションをランクづけし、翌年に日立本体の管理職の処遇をランクに合わせるかたちに変えた。世界各国の社員が世界の市場に製品やサービスを届けるためには、世界の標準に合わせた人材管理が必要だと考えたからだ。
日本の一般社員だけが職務を定めずに人を採用して仕事を割り当てる従来型の「メンバーシップ型」の雇用モデルのままでは「会社が潰れるという危機感」を持っていると中畑CHROは言う。ただ、「ジョブ型にすると雇用がなくなる、これまでの日本の雇用の良さがなくなる、といったステレオタイプな見方をなくすために意図をしっかり伝えていく」と付け加える。
日立グループ労組も経営側に理解を示す。「グローバル化で人材が多様になる中で、いつまでも日本のあうんの呼吸でやっていくのは難しい。仕事を定義して見える化をしていこうという方針には反対するものではない」。ただし、「拙速に進めると色々な問題が出てくる」(同)。実効性を持ちつつ適切にメンテナンスできる職務記述書をつくれるのか、などをチェックしていく必要があるとみる。
春季労使交渉ではとかく「賃上げ」に注目が集まるが、その点では日立労組は「1500円」の回答を引き出した。電機メーカーの労働組合でつくる電機連合が示した妥結目標の「1000円以上」を上回る。
多様化する労使交渉のテーマ。日立にとっては賃上げで社員に報いつつ、グローバル競争で勝ち抜ける人事体系をつくるための第一歩にした意味合いがあるだろう。
各産業ごとに統一要求を掲げて経営側に賃上げを迫る──。かつての「春闘」の意義は確実に薄れてきている。
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