日本電産が役員の大半を降格にする人事を発表した。留任するのは永守重信会長CEO(最高経営責任者)と小部博志副会長の創業メンバーのみ。吉本浩之社長や片山幹雄副会長らはいずれも降格となる。狙いはどこにあるのか。永守氏に電話取材した。

日本電産の永守重信会長CEOは2月4日、日産自動車元副COO(最高執行責任者)の関潤氏を4月1日付で社長にすると発表していた(写真:共同通信)
日本電産の永守重信会長CEOは2月4日、日産自動車元副COO(最高執行責任者)の関潤氏を4月1日付で社長にすると発表していた(写真:共同通信)

主要役員のほとんどを降格することを決めました。4月1日付で吉本浩之社長を交代させる人事に次ぐ驚きの決定です。狙いは何ですか。

永守重信会長CEO(以下、永守氏):既に公表しているように次は(日産自動車元副COOの)関潤氏に社長をやってもらう。吉本君を社長にした2018年春から集団指導体制ということをやってきたが、それは失敗だった。

 中国経済が米中貿易摩擦で18年途中から厳しくなり、今は新型コロナウイルスでさらに環境が悪化している。こういう状況では特にトップダウン体制が大事だと考えている。

私自身の評価もものすごく低い

永守会長と創業メンバーの小部副会長は留任となりますが、実質的には永守会長と関新社長のトップダウン体制になるわけですか。それにしてもなぜその他の役員全員が降格なのですか。

永守氏:吉本君は確かに業績を上げられなかった。しかし、それは彼だけの責任ではない。全員の問題だ。皆やり直す意識を持ってもらいたい。当社は30年に売上高を10兆円(19年3月期売上高は1兆5183億円)に引き上げる計画を持っている。これを何としても実現するには、トップダウンによる早くて強力な経営力が必要になると考えている。

 報酬体系も4月から見直す。評価を業績連動で10段階にして、(担当部門の)計画を達成すれば高い評価になり、最高益を更新すればさらに飛び抜けるようにする。

 狙いは権限と責任と待遇を一致させるようにすること。これまでは日本企業の水準をあまり超えない報酬額にしてきたが、今後は(年に)2億円、3億円という役員が出てくるようにするつもりでいる。

 日本電産は永守ワンマンといわれがちだが、私が鉛筆をなめて評価を決めるようなことは全くしていない。すべて決められた制度通り。私がいてもいなくても同じになる。実際、業績が上がらなかった前期は、私もものすごく低い評点になった。

 社員についても5段階の評価体系にするが、役員と同じく成果を上げれば大きく報いる仕組みにして貢献に応えたい。これまでもそうしてきたが、さらに(貢献に応じて報いることができるようにしようと)考えている。

日本電産の役員は多くが他社から移ってきた人たちです。その考え方についてこられますか。

永守氏:これまで他社の役員を務めて移ってきた場合は、2年間は(前職の)待遇を保証してきた。今回からは、(そうして移ってきた人たちも)実力本位になっていくことになる。

 しかし、これで降格になっても報酬が増えることだってある。前を向いていくべきだ。

 日本企業は過去にとらわれすぎ。必要なのは今やらなければいけない責任とそのための権限を使ってどれだけの業績を上げられるかだ。もっとそこに集中すればいい。

記者から

次に来るのは取締役会改革

 今回の電話取材で永守会長ははっきりと言わなかったが、今回の大胆な人事の背景には取締役会の改革がある。けん制の利いた取締役会とはどういうものか。永守会長はかねて考えていたし、折に触れて改革の必要性を唱えていた。

 関係者の話を突き合わせると、永守会長が想定しているのは、社内役員を少数にして、取締役会での社外役員の比率を高める体制だ。女性役員も増やしていくようだ。

 狙いはどこにあるのか。社長交代と役員降格人事によって、永守会長・関社長のトップダウン体制を強化することと合わせてみるとおぼろげながら考え方はうかがえる。

 それは、2トップでスピード感のある経営を展開し、一方で社外取締役を増やして、経営判断の要素を多元化しようということではないか。

 筆者は永守会長を長年取材してきた。そうした経験から、はっきりと分かることは「会社のためになることなら何が何でもやる」という点だ。自ら創業した日本電産が大企業となっても、自身の子息を後継者にしないという当初の方針を守り続けている。批判を覚悟で、結果的に業績を上げられなかった吉本社長を交代させた。これらはすべて「会社のため」にやっていることだろう。

 その点から考えれば、社外取締役の有用性について感じ始めたのではないか。それは、社内の役員だけでは足りない判断材料や、視点が激しく動く環境を乗り切るには必要と見たためのように思える。

 「ワンマン・永守」が本当に社外の意見を聞くのかという懸念もあるだろう。だが、社外取締役の意見も必要と思えば聞くはずだ。「会社のためになると思えば、必ず取り組む」ことだけは一貫しているからだ。ただし、おかしいと思えば、徹底して論破する。そうなるはずだ。

 永守経営がここに来てまた新たな姿を見せ始めたようだ。永守流の独自経営に終わりはない。

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