キリンホールディングス(HD)は3月3日の投資家向け説明会と記者会見で、医薬や健康分野への多角化が今後の成長エンジンになると改めて表明した。27日の定時株主総会を前に、英投資会社から同社が推す社外取締役の選任とビール事業への集中を求める株主提案を受けているが、拒否する方針。キリンHDはガバナンスの強化に全力を傾ける姿勢を強調しており、社外取締役の在り方が今後の争点になりそうだ。

 磯崎功典社長は記者会見で「(定時株主総会に諮る)今回の会社提案の取締役構成は、他の企業と比較しても、日本におけるガバナンスの最先端にいると自負している」と言い切った。多角化戦略やガバナンス体制を巡り、対立を深めている英投資会社フランチャイズ・パートナーズ(FP)を意識したもののようだ。

キリンHDの磯崎社長(写真右)は「医薬、健康事業を売却してはキリンそのものが崩れてしまう」と強調した
キリンHDの磯崎社長(写真右)は「医薬、健康事業を売却してはキリンそのものが崩れてしまう」と強調した

 キリンHDは、2019年2月に発表した長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(KV2027)」で、健康関連や医薬などの事業に経営資源を集めて成長を目指す方針を掲げた。これにキリンHD株の2%以上を持つというFPが反発した。企業価値を最大化するには、世界の大手と同様に、ビール事業に集中することが必須とのスタンスを取る。

 今年1月中旬には、FPが推す社外取締役の選任と6000億円規模の自社株買いなどを求める株主提案をキリンHDに提出。自社株買いの原資としてキリンHDが過半数を保有する製薬企業の協和キリン株、約1300億円を投じて33%分を昨年取得したファンケル株を売却するよう求めた。

 06年に発表した15年までの長期経営構想「KV2015」についてFPは、数値目標の未達があったと指摘している。約3000億円で買収したブラジル子会社(17年に約770億円でオランダのハイネケンに売却)の不振なども挙げ、経営戦略を客観的に検証できる高い独立性を持つ社外取締役の必要性を訴えている。

「ワイガヤの土壌はできている」

 キリンHDは2月14日の取締役会で、FPの株主提案を全面拒否することを全会一致で決めた。株主総会に向けて、プロキシファイト(委任状争奪戦)の様相を呈している。キリンは新たに4人の社外取締役候補者を独自に内定済みで、定時株主総会に諮る。社外取締役は現在の4人から7人に増え(社内の取締役は5人)、取締役会の半数以上を占めることになる。

 会見で磯崎社長は「社外取締役を過半数にすることや多様性を強化することにこだわり、1年かけて検討してきた」と話した。TOPIX構成銘柄では取締役に占める独立社外取締役の割合が平均で28%なのに対して、キリンHDは58%に達するとアピール。女性取締役がTOPIX平均で6%なのに対して17%、外国人取締役が同1%に対して17%であることなどを訴えた。「社内のお仲間だけではイノベーションは起こせない。ワイガヤで成功を生む土壌はつくれた」と語る。

 しかし、FPが株主提案で社外取締役候補として指名したニコラス・ベネシュ氏は疑義を唱える。JPモルガン出身のベネシュ氏は、日本のコーポレートガバナンスコード(企業統治指針)の策定に携わり、様々な日本企業の社外取締役を経験している。「私ほど独立した取締役の重要性を理解している人間はいない」と自負している。

ベネシュ氏は「私の考えは現時点で白紙だ」と話す<br /><br /><span class="fontBold">ニコラス・ベネシュ</span><br />JPモルガン勤務後にM&Aアドバイザリー会社を設立。日本では内閣府対日直接投資会議専門部会の特別委員などを経て金融庁主宰のコーポレートガバナンス連絡会議の委員を務めた。コーポレートガバナンスコード制定の提案者でもある。これまでに旧ライブドアやセシールの社外取締役、現在はアドバンテストなどの社外取締役を務める。公益社団法人、会社役員育成機構代表理事でもある。
ベネシュ氏は「私の考えは現時点で白紙だ」と話す

ニコラス・ベネシュ
JPモルガン勤務後にM&Aアドバイザリー会社を設立。日本では内閣府対日直接投資会議専門部会の特別委員などを経て金融庁主宰のコーポレートガバナンス連絡会議の委員を務めた。コーポレートガバナンスコード制定の提案者でもある。これまでに旧ライブドアやセシールの社外取締役、現在はアドバンテストなどの社外取締役を務める。公益社団法人、会社役員育成機構代表理事でもある。
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