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「トヨタらしさを取り戻す」。豊田章男社長(右から2番目)は新体制発表にあわせてこんなメッセージを発表した。

 トヨタ自動車は3月31日限りで副社長職を廃止する。4月1日から豊田章男社長の下に置く全執行役員を同列にし、「チーフオフィサー」や「カンパニープレジデント」といった担当に振り分ける。従来の6人の副社長に代わって社長の「名代」となる21人の執行役員の指揮で部門の融合を図り、クルマ造りだけに満足しない組織への変革を目指す。

 「次世代のために、今やらなければならないことは、トヨタらしさを取り戻すことだ」。トヨタは3日、体制見直しの発表と合わせ豊田章男社長のコメントを記した。章男社長の捉えるトヨタらしさとは「基本姿勢は『素直、正直。ごまかさない、隠さない』ことで、競争力の源泉はトヨタ生産方式(TPS)と原価のつくりこみ」。成功体験を積み重ねる上で、それらが「失われている」と危機感を抱く。

 トヨタの2020年3月期の連結純利益は前年比25%増の2兆3500億円となる見込み。日本全体のGDP(国内総生産)がほぼ横ばいの最近20年で、売上高を2倍、利益を4倍近くに高めた「勝ち組」だ。生産工程でカイゼンを重ね、高品質なクルマを手ごろな価格で提供。迷走する日産自動車やホンダと比較し、クルマ造りの競争力が高まっていることに疑いはない。

 それなら現状でいいのではないか、となるところだが、自動車産業は今、コネクテッド化や電動化など技術革新の渦中にある。価値のよりどころは「所有」から「利用」に移り、実直にクルマを造るだけでは、将来も稼げる見通しが立たない。何よりも、顧客をカイゼンの「出口」と捉え、そのニーズに素直に応じないといけない。危機感を抱いた章男社長は18年1月、自身も含めて「7人のサムライ」と呼ぶ6人の副社長体制を発足させた。

 機能別に縦割りになった組織を一本化し、先を見て柔軟に動ける体制へと移行する──。とはいえ、トップの思いが大組織に行き渡るのは至難だ。「業績が好調なことも現場の変革にブレーキをかけている」(関係者)。章男社長は1月の米デジタル技術見本市「CES」で、新技術の実証実験の場となるコネクテッドシティの建設計画をぶち上げたが、社外よりトヨタ社内での反応が悪かったことにショックを受けた。

 4月からの新体制では、社長の下に21人の執行役員をフラットに配置し、それぞれにCFO(最高財務責任者)などのチーフオフィサー、カンパニープレジデント、地域CEOといった各機能担当の役割を持たせる。ポイントはその役割を固定せず「その時々の責任者を配置する」ことだ。地域や事業を統括する「リーダー」を臨機応変に動かすことで、組織の硬直化から脱する計らいだ。

 「将来に向けたグランドデザインを描き、トヨタのすべきことを模索するスタンスをより多くと共有したいのだろう。そういう意味では章男社長の名代が増えることになる」。あるトヨタ関係者はそう語る。7人だったサムライを22人に増やすことにより、組織にどんな刺激をもたらすか。世界37万人の従業員がいる社内のグランドデザインは、未来のクルマ造りと同じくらい難しいのかもしれない。

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