塩野義製薬は28日、長崎大学と産学連携を強化する考えを示した。長崎大学の熱帯医学研究所に「シオノギグローバル感染症連携部門」を設置、マラリアのワクチンや新薬の開発を目指す。長崎大学の熱帯医学研究所は、感染症分野で国内トップレベルの研究実績を持っており、今回の提携は感染症分野でリードする両者が手を組んだ形だ。

もっともマラリアは年間約44万人が死亡する病気にもかかわらず、「ビジネスとして利益を出しにくい」現状がある。アフリカや東南アジアなど国民の平均所得が低い地域に流行しているため、たとえ新薬を開発できたとしてもその費用を回収できない。塩野義は「地球温暖化が進めばマラリアの流行地域も広がり、想定患者数は拡大する」(同社広報担当者)というスタンスだが、今のところCSR(企業の社会的責任)を果たすという面の方が強そうだ。
そもそもマラリアを含め、感染症の治療薬の場合、収益を安定させるのが難しいケースが多い。突発的な流行が起これば需要が急拡大するものの、起こらなければ過剰在庫を抱えかねないからだ。例えば、インフルエンザが記録的な流行となった今冬では、塩野義のインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」が一躍シェアトップに躍り出た。しかし、増える需要に対応するため、同社は土日を含めて工場を24時間稼働させる必要があった。
塩野義の2017年度営業利益は1152億円で、国内1位の武田薬品工業、2位のアステラス製薬に次ぐ規模だが、売上高を見ると国内10位にとどまる。長崎大学との提携は、ひとまず「利益より企業価値」を優先した形だが、新薬の開発の行方はもちろん、根本的な課題でもある「感染症分野での安定した収益の確保」にどう取り組むか。成長への悩みは尽きない。
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