WHOが「効果があるとみられる唯一の薬」と発言
「レムデシビル」は、米製薬大手のギリアド・サイエンシズが開発したエボラ出血熱の治療薬だ。中国を視察した世界保健機関(WHO)の担当者が24日、レムデシビルに対し「現時点で本当に治療効果があるとみられる唯一の薬」と発言したことで、「有望薬」として一気に注目を集めている。米国立衛生研究所(NIH)も現地時間25日、レムデシビルを使った臨床試験を開始すると発表した。
同薬は開発中の新薬であり、ウイルスに対する効果のメカニズムについて「詳細を開示する段階ではない」(ギリアド・サイエンシズの日本法人)としている。ただし、コロナウイルス系の感染症に対する効果が期待できるとする研究結果があることから、中国などで試験的に投与されてきた実績がある。
同社は2月3日に発表した声明で「現時点では新型コロナウイルスに対して抗ウイルス活性を示すデータはない」としながらも、MERSやSARSの原因ウイルスに対して試験管内で抗ウイルス活性を示したことを受け、「得られたデータは我々に希望を与える内容だ」としている。
ただし、レムデシビルが承認薬として日本の患者に届くには時間がかかりそうだ。NIHによる臨床試験は、結果が出るまで1年程度かかるとの報道がある。申請から承認まで、通常だとさらに1年ほどかかることから、ある製薬会社の担当者は「緊急性を考えて特例扱いだとしても、最短でも年内の承認だろう」とみる。
3つ目の有望薬として期待されるのが「カレトラ」。抗エイズウイルス(HIV)薬として知られる。
なぜ抗HIV薬が新型コロナウイルスに対して有効だと考えられるのか。前述の抗インフルエンザ薬のように薬が阻害する働きを考えてみよう。
HIVが増殖する過程はプラモデルで例えられる。HIVは細胞に侵入すると、その細胞を乗っ取ってウイルス用にタンパク質を合成させる。このタンパク質は、箱を開けたばかりのプラモデルの部材のように、小さな部品がつながっている状態だ。このままでは組み立てられないので、「プロテアーゼ」と呼ばれる酵素が“はさみ”の役割を果たす。切られてバラバラになった部品を、プラモデルのようにウイルスが組み立てていく。
このプロテアーゼの働きを阻害するのがカレトラなどの「プロテアーゼ阻害薬」だ。
新型コロナウイルスもプロテアーゼの働きを借りるとされる。同じコロナウイルスであるSARSの原因ウイルスに対しても効果がある可能性があるとの研究結果があることなどから、新型コロナウイルスに対しても効果が見込めると判断されたもようだ。
WHOが2月14日にジュネーブ開いた研究フォーラムでは、カレトラを構成する抗ウイルス薬「リトナビル」と「ロピナビル」の併用投与について、「数週間以内に予備的な臨床試験の結果が出る」との見通しが発表された。アビガンと同様、カレトラも既に承認薬なので効果が確認されれば患者への投与までさほど時間はかからないだろう。
3つの治療薬はいまだ検証中であり、効果が保証された薬はない。各国当局は「既存薬の転用」という奥の手を使って、治療法の確立を急いでいる。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「1分解説」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?