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 まず一つは、いわゆる「日本ブランド」がここでは既に使い古されたコンセプトであることだ。「メイド・イン・ジャパンの商品ならば、多少製品価格が高くても買ってもらえると思っていたが間違っていた。最初は物珍しさで客が集まったが、すぐに足が途絶えてしまった」。ある日系小売りチェーンの現地責任者はこう振り返る。百貨店、コンビニからドラッグストア、雑貨店まで、日本で名の知れた小売りブランドの出店は既に一巡しており、その多くが判で押したように日本を強く意識した売り場を展開している。もはや日本を売りにするだけでは消費者の財布のひもは緩まない。

 加えてバンコクでは商業施設の出店ラッシュが続いている。売り場面積は約10年で倍増し「供給は過剰になっている」(タイ小売り最大手セントラル・グループのトッス・チラティワット・グループCEO)。優勝劣敗もつきはじめており、今年1月には東急百貨店がバンコクにある2つの店舗のうち、「東急百貨店 パラダイスパーク店」を閉店した。売り場担当者によれば「日本の商品を多く取りそろえていたが、価格が高くて思うように売れず、客が手ごろな商品にあふれる近隣の競合ショッピングセンターに流れてしまった」という。

 こうした課題をドンキは既に想定済み。単に日本の商品を並べるだけでなく、消費者を惹きつける仕掛けをいくつも取り入れている。同社の売り場の最大の特徴である、数多くの商品を所狭しと並べる店作りはここでも健在で、整然とした売り場が多い日系小売店のなかでは一線を画す。この日来店した25歳のタイ人女性は「商品が沢山並んでいるのに、何がどこにあるのか何となく分かるから不思議」と驚く。

 それ以外にも特筆すべき工夫が大きく3つある。

 まず店内調理だ。店舗内には調理場があり、客は購入した精肉や鮮魚などを、その場で好みに合わせて調理してもらえる。人気を集めている日本食に仕立ててもらうことも可能だ。持ち帰りができるほか、併設するイートインコーナーでも出来たての料理を楽しめる。タイでは目当ての商品を購入してすぐ店を出るのではなく、エアコンが効いた涼しい店内でのんびりと長時間を過ごす傾向がある。そこで現地小売りの店舗では、販促員が派手な格好で店舗を練り歩き、エスカレーターの前で大音量の音楽に合わせダンスを披露するなど、長時間過ごす客を飽きさせない工夫を凝らしてきた。ただ今回のドンキのように、その場で購入した新鮮な食品を路上の屋台のように即座に日本食に調理して提供する仕組みは珍しい。そのライブ感を目当てに訪れる消費者は多いだろう。

調理場を店内の目立つ位置に配置し、出来たての料理が食べられることをアピール

 2つ目の特徴は、商品の価格だ。安田創業会長は「日本製品を(東南アジアで)買おうとすると3倍も4倍もする。こんなバカな話はない。日本の商品は安いということを知ってもらいたい」と話す。実際、ドンドンドンキで販売する日本の商品は日系百貨店と比べて価格が抑えられている。「日本と同じ価格か、高くても1.5倍以内だ」(大原社長)。

 「ドンキはひた隠しにしているが、独自の流通網を構築するのに成功しているようだ」とある日系企業関係者は言う。その流通網の全容は明らかではないが、生鮮食品は農家から直接買い付け、船で大量輸送しても鮮度が落ちないような工夫を導入しているようだ。ドンキはそのノウハウをタイにも持ち込んだ。「商品が他の日系百貨店よりも安い」。実際に店舗を訪れた消費者は語る。

 3つ目は出店形態だ。今回の店舗は、パンパシHDとタイ国内最大手の塗料メーカー、そして日本駐車場開発という3社で設立したモール「ドンキモールトンロー」の中核テナントという位置づけになっている。このモールは、飲食、雑貨、化粧品などの専門店に加え、カラオケや屋内スポーツ施設も入る「総合アミューズメントモール」だ。前述のように、タイ消費者は目的買いでなく滞在型の行動を取る。これに合わせて「バンコクで一番安く楽しく過ごせるスペース」(大原社長)を作ったという。

 ドンキモールトンローが目標とする来場者数は年間200万人。そのハードルをクリアできるかが最初の関門になる。「CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)」と呼ばれる近隣国にとってバンコクは「流行の発信地」でもある。つまり、ここで消費者の心を掴むことができなければ、東南アジア展開は覚束ない。2月1日、ドンキはパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスに社名変更した。バンコク1号店は、同社がその名の通り太平洋を股にかけた企業に成長できるかを左右する。

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