中国は法執行も「成果主義」社会

 ただし、それでも注意を怠れない理由が大きく4つある。1つ目は、中国社会が、日本人が思う以上に成果主義社会であること。「行政機関でも法や規制の執行に数値を伴う目標が課され、その達成度合いに応じて人事考課が行われる。国家安全局にも摘発のノルマがあるのではないか」(津上氏)

 防諜やテロ対策、治安維持は習近平政権が力を入れる取り組みであるだけに、その目標の設定や達成に余計に力が入る可能性もある。ある外務省OBは「目標の達成度をめぐって、担当者間の競争も起きる」と指摘する。

 第2の理由は、新しい法律や規制が悪用される恐れがあることだ。今回の拘束事件について、中国ビジネスに携わる人々の間で次の可能性が口にされている。「拘束された男性は、中国でビジネスを進める過程で恨みを買うことがあったのではないか。不満を持った相手が男性をスパイ容疑で誣告(編集部注:事実と異なることをわざと伝えること)したことが考えられる」

 新しい法律や規制が制定されると、それを本来とは異なる目的で用いようとする人が現れる。これは、いつの時代、どこの国でも避けられない。

 そして第3の理由は、外交関係が影響する恐れがあること。華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長をカナダ政府が逮捕して以降、複数のカナダ人が相次いで拘束されている。うち2人は「中国の国家安全に危害を与える行為に関わった疑い」だ。ファーウェイの件との関連を指摘する声が広がっている。

 4番目の理由は、一度拘束されると長期化する傾向があることだ。その背景に、国家安全局の性格が影響しているとの見方がある。短期間で解放すれば、拘束そのものが見込み違いであったことを示しかねないので、おのずと拘束期間が延びる。同局は独立性が高く、外部からの介入を嫌う面もあるという。例えば、日中関係が好転したのを受けて中国外交部が「拘束されている日本人の身柄を解放したい」と考えても国家安全局と話し合うチャネルは限られる。

「ビジネスパーソンはもっと勉強して訪中を」

 前出の外務省OBは、今回の件をもって、中国を極端に異端な存在とする見方には否定的だ。「何もしていない一般のビジネスパーソンを中国の官憲が捕まえるようなことはしない。法令を守るなど、当たり前のことをきちんとしていれば、過度に心配する必要はない」と語る。

 ただし、「日本人は中国の防諜や治安維持の在り方を知らなすぎる。もっと勉強して訪中すべきだ。中国の軍艦や軍の施設の写真を撮影すれば捕まるのは当たり前」とくぎを刺す。「日中関係が悪い時、日系企業の日本人経営者は“聖人君子”となる。会食の後はまっすぐ帰宅し、読書に励む。これは当たり前のこと」というくらい注意が必要だ。

 日中関係について同氏は「中国の李克強首相が18年5月に訪日し、安倍晋三首相が同10月に訪中したのを境に改善した。日本人にとって中国はそれ以前よりずっと安全な場所になっている」(同)と評価する。

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