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 伊藤忠商事に勤める40代の男性社員がおよそ1年にわたって中国広東省広州市の国家安全局によって拘束されていることが2月14日、明らかになった。国家安全局は防諜を管轄する部門。男性はスパイ行為に関わった罪で起訴され、公判が進んでいるとされる。容疑をかけられたのがどのような行動なのか明らかでないため、中国事業に関わる日本のビジネスパーソンの間で「他人事ではない」と不安の声が上がっている。

 中国ビジネスの事情に詳しい津上俊哉・日本国際問題研究所客員研究員は今回の件を、「長期と短期、2つのトレンドの上で起きた現象」と見る。

習近平氏は2012年11月、「中国国家の偉大な復活を実現することは現代中国の夢である」とぶち上げた。その実現手法が問われている(写真:Featurechina/アフロ)

 長期トレンドは、中国における自信の高まりだ。「30年ほど前まで、中国人は『中国は後れている』という劣等感が強かった。その裏返しとして、外国人は失礼をしてはならない特別な存在と見ていた(“外賓”と呼んだ)。だから外国人を逮捕拘束するというのは、よほどのことだった。それが経済成長と国際的地位の向上によって心理的な力関係が変わり、外国人であっても罪を犯せば罰を科すのは当然、との意識が普及した」

 短期のトレンドは、習近平政権が進める安全保障政策の立法化だ。中国は防諜やテロ対策、治安維持のための法整備を急速に進めている。2014年11月に反スパイ法を施行したのを皮切りに、15年7月に国家安全法、16年1月に反テロリズム法、17年6月にサイバーセキュリティ法と国家情報法を相次いで施行した。

 「『習政権になってから次々新たな立法をして取り締まりを強化している』というイメージがあるが、過去に中国人相手には法律に基づかない苛烈な取り締まりがあった。皮肉を言えば、人治を、全人代(編集部注:全国人民代表大会、日本の国会に相当)が関与した法治に変えようとしているとも言える」(津上氏)

 この2つのトレンドは、“後れた国”を解消すべく、中国が進める取り組みの一断面と見ることができる。外国人に対しても適正に法を執行するのは、独立した国として当たり前のこと。アヘン戦争後の100年を「屈辱の100年」と見る中国にとってはなおさらだ。属人的、恣意的な判断を廃し、ルールに基づいて政策を運営するという流れも、その質や進み度合いは決して十分とは言えないものの、方向としては間違いではない。