2年前に解任された積水ハウスの和田勇・前会長が仕掛けた逆襲。騒動の発端は2017年夏に積水ハウスが被害に遭った地面師事件にあり、阿部俊則現会長に責任の一端があることは「積水ハウス、カギ握る黒塗りの調査報告書」で指摘した通りだ。

 2月17日の記者会見で和田氏は「地面師事件では(積水ハウスは)被害者のように受け取られるが、精査すると明らかに不正な取引。間違った取引」と主張。社外取締役らからなる「調査対策委員会」が取締役会に提出済みの調査報告書を現経営陣が開示しないことにも「何で隠すのか」と語気を強めた。

2月17日の記者会見で、和田勇・積水ハウス前会長(写真中央)は現経営陣の責任を問うた(写真:稲垣 純也)

 地面師事件については当時、会長だった和田氏はノータッチだったという。和田氏は海外案件の担当で、国内事業は当時社長だった阿部氏に任せていた。2月17日の記者会見で和田氏は「結果として(当時)CEO(最高経営責任者)としての責任はあった」と述べたが、地面師事件の舞台となった東京・五反田の土地の取得を巡る稟議(りんぎ)書の役員のサインも阿部氏が最初で、この土地は「社長案件」と社内では受け止められていた。

 CEOの決裁のない案件がまかり通ること自体、コーポレートガバナンス(企業統治)が効いていない証左だが、なぜ、そんなことが起きたのか。

 

 実はこの事件の半年ほど前から積水ハウスでは和田氏と阿部氏の権力争いが激しくなっていた。和田氏は「彼(阿部氏)は自分が経営していると思っているのではないか」と周囲に語っている。一方の阿部氏も和田氏から外されることを想定してか、仲間づくりに動いていた。実績を積むために絶好調だったマンション建設に前のめりになったのも、和田氏への対抗心からとみられている。

 そこに舞い込んできたのが、五反田案件だった。この話を積水ハウスより少し前に聞いたという大和ハウス工業の幹部は「そんな怪しいものを買えるかと突っぱねた」という。だが、積水ハウスは飛びついた。結局、話はすべて絵空事で、残ったのは巨額の損失だけ。そして、社外取締役と監査役からなる調査委員会に調査を要請したのは和田氏だった。

 当時のことをよく知る関係者は「和田さんもワキが甘かった。さっさと阿部さんを切っておけば何事もなかったかもしれない」と語る。和田氏は地面師案件をネタに阿部氏を外そうとしたが、事件から半年、調査委員会による調査の開始からも数カ月がたつ中で、阿部氏側も迎撃体制を整えていた。

 18年1月の取締役会の前日、和田氏は「味方」を集めて作戦会議をしている。そこに集まったのは和田氏を除いて6人。積水ハウスの取締役は11人で、和田氏は過半数を押さえているはずだった。しかし取締役会当日、和田氏についたのは4人。「2人は阿部氏側のスパイだった」(関係者)。多数決で敗れた和田氏は辞任するしかなかった。

 和田氏はその後「クーデターを起こされた」と主張するようになる。会社が調査報告書の全文を公表しないことに批判が相次ぎ、18年4月の定時株主総会では米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)などが会社の提案した人事案に反対するように推奨したが、議案は滞りなく通過。「和田氏の乱」は一度、幕を閉じた。

 積水ハウスのその後はどうか。20年1月期の連結決算は純利益が前期比8%増の1390億円、売上高が同10%増の2兆3670億円となる見通しだ。戸建て住宅販売が伸び、米国の賃貸住宅の売却も寄与する。住宅・不動産会社の収益は、3年ほど前の仕込みがあって、それが今の決算に数字として表れる。つまり、今の好業績は和田時代の産物、というのが和田氏の主張だ。

 むしろ問題はこの先。将来に向けた手を打てていない、との危機感が和田氏側にはある。

 そんな中で和田氏は今回、現経営陣の責任追及ののろしを上げた。「株主提案した和田・積水ハウス元会長が明かす『総会戦略』」で和田氏が強調しているように、その核心は地面師事件を巡る真相解明にある。今後の焦点は、和田氏らの主張をどの程度、ほかの株主が聞き入れるかだ。

 一部株主は調査報告書の公表を求めて裁判を起こした。臭いものに蓋をしようとしてきた阿部氏ら現経営陣もいつかはツケを払わないといけないだろう。そうなれば、経営の混乱は避けられない。

 地面師事件の真相究明が透明性の高いガバナンス体制の構築につながるのか。結局、何も変わらなかった、ではもう済まされないかもしれない。

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