キリンホールディングス(HD)は2月14日、同社の株式を2%以上保有するという英投資会社フランチャイズ・パートナーズ(FP)による株主提案を全面的に拒否することを発表した。ビールの国内市場は縮み、海外でも条件の良い買収案件は出にくいと判断しているキリンHD。FPはビール事業への集中を求めているが、むしろ医薬・健康シフトを急ぐ構えを強めている。

キリンHDは医薬や健康を含め、多角的に稼ぐ長期戦略を掲げている(東京・中野)
 

 「全会一致で拒否を決議した。中長期的に持続可能な成長戦略を考えた時、ビールへの集中でいいと考える役員はいなかった」。キリンHDの磯崎功典社長は14日の決算記者会見で、同日開いた取締役会の様子についてこう話した。昨秋からFPと話し合ってきた経緯も明らかにし、「医薬や健康領域で成長を目指すことを丁寧に説明してきたが、理解を得られなかった」と強調した。

プロキシファイトの可能性

 FPは1月中旬、キリンHDに2人の社外取締役の選任と6000億円規模の自社株買いなどを求める株主提案をした。磯崎社長が明らかにした取締役会での決議は、このいずれにも反対している。このままだと3月に開く定時株主総会でプロキシファイト(委任状争奪戦)にもつれ込み、両者が全面対決することになる。

 最大の焦点は自社株買いだ。自社株を市中から買い集めれば株価の上昇につながる。だが、FPは単に株主還元の強化を求めているわけではない。自社株買いの原資として、キリンHDが過半数を保有する製薬企業の協和キリン株、約1300億円を投じて33%分を昨年取得したファンケル株を売却するよう求めている。医薬やヘルスケア関連事業を売り払い、中核のビール事業に集中することで、企業価値を最大化できるとFPは主張している。

 FPの主張は磯崎社長が掲げる経営方針の真逆だ。2019年2月には医薬や健康食品を成長エンジンとし、グループ事業利益を27年まで年平均4~6%成長させる長期経営構想を発表済み。4月には1000億円以上を投じ、協和キリンの傘下だった健康素材などを手掛ける協和発酵バイオを直接子会社化。化粧品・健康食品のファンケルと資本業務提携を結んだのは8月で、段階的に酒類事業からのシフトを強めていた。

 記者会見で磯崎社長は「競争力のある医薬品を持つ協和キリンに加え、高機能素材を安価に量産できる協和発酵バイオと、BtoCの商品開発に強みを持つファンケルが揃った」と強調。「健康領域を攻める独自のバリューチェーンが出来上がった。世界中に市場を拡大できる」と話し、従来の経営方針を貫く考えを示した。

 キリンHDが医薬、健康に傾斜するのは酒類事業に逆風が吹いているため。国内は少子高齢化や若者の嗜好の変化で、業界全体のビール類の販売数量が19年まで15年連続で減少している。キリンは第3のビール「本麒麟」がヒットしたが、今年10月以降、酒税改正で第3のビールは段階的に増税され、ブランド間の競争が激しくなる。

 ビールはブランドビジネスのため、海外で事業を広げるにはM&A(合併・買収)が欠かせないが、業界再編は一段落している。昨年、アサヒグループホールディングス(GHD)が豪ビール大手を1兆2000億円もの巨費を投じて買収すると発表したように、「海外M&Aの条件の良い出物はもうない」(ビール大手首脳)との見方が強い。

 18年9月にはWHO(世界保健機関)が、アルコールの過剰摂取によって世界で年間300万人以上が死亡しているとする報告書を発表。たばこに次いで、アルコールに対する規制強化の流れが世界的に強まっている。「バドワイザー」を手掛けるビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)やハイネケン(オランダ)もノンアルコールビールの販売量を急速に増やしている。

「飛び地を攻めているわけではない」

 内憂外患に苛まれるキリンHDが出した解が多角化だった。磯崎氏は「ビールに特化することで持続的な成長ができるとは到底思えない。ビールで培った発酵・バイオ技術を生かした医薬や健康関連事業には長い歴史があり、当社のDNAとも言える。決して飛び地を攻めているわけではない」と語気を強めた。

 同時に発表したキリンHDの19年12月期決算は、海外を中心に伸びる医薬事業の事業利益が前の期比約10%増の554億円となった。飲料のキリンビバレッジの2倍以上で、主力のキリンビールの833億円に迫る勢いを見せた。

 しかし、これまでのところ市場の反応は渋い。19年通年の株価の推移は、国内外のビール事業に経営資源を集中投下するアサヒGHDが17%上昇したのに対し、キリンHDは4%上昇にとどまった。世界の企業経営の潮流は選択と集中だ。FPはキリンHDに「コングロマリットディスカウントが発生している」とみている。

 一般的にヘルスケア事業は飲料よりも利益率が高く、「キリンHDの判断は戦略としては理解できる」と評価するアナリストも少なくない。ただ、巨額の投資に対して、多角化した事業がさらに利益貢献を高めるには時間を要する。

 医薬、健康事業に頼るキリンは今秋以降、キリンビールとキリンビバレッジでファンケルブランドを活用した新商品を、ファンケルではキリンの素材を使った商品を発売する。こうしたシナジー創出に向けた具体策を3月初旬にも発表する。一方、FPも近く日本の投資家に向けた呼び掛けを始めるもようだ。多角化かビール集中かが問われる3月下旬の定時株主総会を控え、株主を自陣営に引き込もうとする両者のつばぜり合いが激しくなる。

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