今日自分が食べたいもの、飲みたいものが店側に丸裸にされていたとしたら、「いいね」と思うか、「気味が悪い」と感じるか──。ITの活用を加速するファミリーレストラン最大手のすかいらーくホールディングスで、こんな挑戦がいよいよ実用段階に入る。同社は14日、デジタル化でビジネス基盤を強化する戦略を発表。目玉は、顧客一人ひとりの嗜好に合わせて最適なメニューを提案する「売る力の強化」だ。IT本部を統括する和田千弘取締役は「外食業界で初めて本格的な『One to Oneマーケティング』を実現する」と意気込む。

すかいらーくは昨年、クーポンを発行したり新メニューを告知したりするスマホ向けの「マルチブランドアプリ」を導入し、現在1700万人が利用する。同社にとってこれは単なる集客ツールではない。利用者の性別、年代、居住地域などを登録してもらい、いつ店に来たか、どんな注文をしたのかなどの履歴を集めている情報インフラなのだ。IT本部内のデータサイエンティスト達が日々、そのデータ分析を重ねる。
集めたデータをどう生かすか。店内の各テーブルに置くタブレット端末「デジタルメニューブック」と連動し、顧客を特定。一人ひとりに「おすすめメニュー」を自動表示するような仕組みを整える。来店時刻や天候・気温、季節、店舗の立地などに応じ、最適の商品を提案。商品を選びやすくするだけでなく、客単価を引き上げる狙いもある。一定の時間が経てば、デザートをおすすめするなどの機能も端末に持たせた。現在は「ガスト渋谷宇田川町店(東京・渋谷)」で試験的に使っている段階だが、19年中に数百店に拡大。2~3年中に国内の全3200店で導入する計画だ。

データの集め方はもう一段、深掘りする。たとえばドリンクバーのサーバーに、「ビーコン」と呼ぶ発信機を搭載し、顧客のスマホを感知できるようにする。ドリンクバーを利用する頻度やドリンクの種類を把握し、メニューの改善などに生かすという。ITを駆使して、顧客の嗜好を丸裸にする取り組みだが、課題は冒頭の問いにつながる。消費者の中には「プライバシーを見透かされるような居心地の悪さを感じる」(40代女性)、「ダイエットをしているのに、好きなスイーツを提案されるとつらくなりそう」(20代女性)などの声があり、現状では評価が割れているのが実情だ。
前述の和田氏は「プライバシーの保護は大前提。テーブル端末によるメニュー提案などは、しつこくならないような工夫が必要だ」と話す。いずれにせよ、外食産業にとって、広く、深く、稼ぎにもつながる顧客データが必要不可欠なものになっていることは間違いない。
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