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 「今日の核酸増幅検査で陽性反応が出て、一件落着した。やっと診断が出た」

 中国湖北省武漢市で謎の肺炎が広まっている事実をいち早く報告した武漢中心医院の眼科医、李文亮氏は2月1日に「微博(ウェイボ)」でこう心中を吐露した。そして、それが彼の最後の書き込みとなった。複数の中国メディアは、同氏が7日午前2時58分に新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなったと報じた。

李文亮氏(写真:ZUMA Press/アフロ)

 李氏はネット上で「疫病吹哨人」と呼ばれていた。吹哨人とは告発者(ホイッスルブロワー)の意味だ。新型肺炎についての情報を得て、いち早く知らせたという称賛の意味が込められている。

 李氏が、医師の同僚が参加するSNS(交流サイト)「微信(ウィーチャット)」のグループに「海鮮市場で7件の重症急性呼吸器症候群(SARS)に似た肺炎が確認された」と書き込んだのは、2019年12月30日のことだった。武漢市公安当局は李氏の書き込みを見つけ出し、事実でない書き込みであり「治安管理処罰法」に違反しているとして李氏を処罰した。李氏は武漢市公安当局が処罰したと公表している、8人の市民のうちの1人だったとみられる。

李文亮氏が武漢公安当局に書かされた訓戒書。同氏の微博アカウントより

 当時、武漢市が新型肺炎の情報について過敏になっていたのは、湖北省が「両会」と呼ばれる重要政治日程を1月12~17日に控えていたためとみられている。同市は、何日にもわたって感染者が1人も増えないなど不自然な発表を続けており、その間に国内外に感染者が広がった可能性が高い(関連記事:新型肺炎、中国情報公開の「空白期間」に日本で起きたヒト・ヒト感染)。

 1月31日、李氏は病床から微博に一連の経緯を書き込んだ。1月3日に公安に処罰されたこと。肺炎患者の診察に当たったこと。10日にせきの症状が出て11日に発熱し、12日に病院に行ったこと。核酸増幅検査の結果は陰性だったが、呼吸困難で動けないこと。そして父母も入院したこと。当時、武漢市や世界保健機関(WHO)は「人から人への感染は確認されていない」という姿勢を崩していなかった。

 その後の感染拡大の状況を見ると、誰が正しかったのかは一目瞭然だ。中国の疫学の権威で、国家衛生健康委員会の高級専門家である曽光氏は李氏らを「事前諸葛亮」として「尊敬すべきだし高く評価できる」と述べている(新型コロナウイルス、中国では処罰市民を「事前諸葛亮」と再評価)。

 中国政府や武漢市は初期対応に問題があったことを認めており、李氏の書き込みは削除されていない。国民からは李氏の死を悼むコメントが次々に寄せられている。中国共産党機関紙の人民日報を含む中国国内メディアは、微博アカウントなどで李氏の死亡を速報し、哀悼の意を表した。

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