デサントは7日、同社に対して伊藤忠商事が実施しているTOB(株式公開買い付け)への反対意見を表明した。「当社の企業価値を毀損し株主共同の利益を侵害するものである」とし、株主にTOBに応募しないよう求めている。日本では異例の大企業同士の敵対的TOBに発展する。
デサントの辻本謙一取締役常務執行役員は同日、報道陣の取材に応じ、「伊藤忠が支配株主になれば同社との仕入れ取引が拡大し、デサントのパートナー選定の自由度が奪われる。デサントの企業価値も毀損する可能性がある」と話した。一方で「建設的な話し合いの場を持てることを強く望む」とも強調した。

伊藤忠は1月31日に現在3割の保有株数をTOBを通じて4割に引き上げると発表。発言力を強めて経営改革を迫る狙いがあった。その直後に日経ビジネスの単独インタビューに応じたデサントの石本雅敏社長は「事前に何も連絡がなかったのは遺憾」などと話していた(伊藤忠がデサントにTOB、かみ合わない両者の思い参照)。
日本では2000年に旧村上ファンドが昭栄(現ヒューリック)に敵対的TOBを仕掛けたのが初の事例とされる。その後も王子製紙(現王子ホールディングス)が北越製紙(現北越コーポレーション)に踏み切ったが、いずれも失敗に終わっている。
伊藤忠とデサントという有力企業を巡って勃発した今回の敵対的TOB。米国のようにM&A(合併・買収)のツールの一つとして広く使われるようになるのだろうか。
企業経営に詳しいある弁護士は「敵対的TOBが浸透するには、まだ時間がかかるのではないか」と指摘する。いわば、資本の力によって経営者に退場を迫る手法を受け入れる土壌が日本には育っていないとみるからだ。
買収される側の従業員などから大きな反発を買い、市場からの評価が結果として上がらないリスクも残る。この弁護士は「もちろん経営に緊張感をもたらす効果は否定しないが、そこまで非情・ドライになりきれる経営者は少ないのではないか」と話す。むしろ「抜かずの宝刀」としての役割の方が大きいという見方だ。
デサントの株主がどう応じるかが焦点となる一方で、伊藤忠のように「宝刀」を抜く大企業が出てくるのか。注目が集まりそうだ。
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