英政府は4日、2016年に日産自動車に送った書簡の内容を公表した。
16年6月の国民投票で英国のEU離脱(ブレグジット)が決まってから、日産自動車は英国生産の将来性を危惧していた。そこで英政府は日産のカルロス・ゴーン社長(当時)宛の書簡で、ブレグジットの影響を軽減し、最大8000万ポンド(約115億円)の支援を提示していた。
この書簡が送られた直後の16年10月に日産は主力多目的スポーツ車(SUV)の「キャシュカイ」と「エクストレイル」の次期モデルを英国で生産することを明らかにした。だが、日産はその方針を転換。今年2月3日に次期エクストレイルの生産を日本に切り替えると発表した。
この書簡の存在は以前からささやかれており、英政府と日産との「密約」と言われていた。英政府は「商業上の機密にあたる」として頑なに公表を拒んできたのにもかかわらず、今回対応を180度転換した。
表向きは日産の計画変更に伴う措置だと説明している。だが、合意なき離脱の可能性が高まり、瀬戸際に立たされた英政府が密約を暴露して、日産に生産を継続するように圧力をかけているようだ。

今回の日産の生産計画の見直しは、英国に大きな衝撃を与えている。それは、タイミングと規模、土地とそれぞれの理由がある。
ブレグジットのあり方を巡る議論が山場を迎えており、2月14日に英議会の採決を控えている。このタイミングで英国から製造拠点を移す動きは、議論にも影響を与えることになりかねない。
これまでも英国外に事務所や生産拠点を移す動きはあったが、日産は規模が大きい。英国最大の自動車工場であり、7000人の従業員がいる。18年11月中旬に、英主要経済団体の英産業連盟(CBI)が開催した年次総会に登壇したメイ英首相は、自動車の生産台数を増やしている具体例として、真っ先に日産のサンダーランド工場の名前を挙げた。
さらに、サンダーランドは英国の中でも経済的に厳しい地域で、日産の自動車工場とその関連企業に支えられている側面が強い。日産の投資が落ち込めば、地域経済に与える影響は甚大だ。
日産が英政府から支援金を受け取るためには、再申請が必要になる。書簡が公表されたことで、日産が再申請に応じれば、英国への投資をコミットしたことになり、逃げ道を塞がれた格好となる。英政府と日産の神経戦が激しさを増している。
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