米国が2月1日、中距離核戦力(INF)廃棄条約が課す義務の履行を2月2日以降停止すると表明した。米政府はロシアが2017年に実戦配備した地上発射型巡航ミサイル「SSC8」が同条約に違反していると主張。「過去6年の間に30回の協議をしてきたが成果は上がらなかった」(米政府)と非難した。これを追ってロシアも同2日、同条約の義務履行を停止する意向を明らかにした。ロシアは米国の主張を否定するとともに、米国が欧州に配備するミサイル防衛システムこそ同条約違反と応酬していた。

トランプ米大統領(左)とロシアのプーチン大統領(右)。中距離核戦力の扱いをめぐって、米ロは対立しているのか、思惑を同じくしているのか。(写真:ロイター/アフロ)
トランプ米大統領(左)とロシアのプーチン大統領(右)。中距離核戦力の扱いをめぐって、米ロは対立しているのか、思惑を同じくしているのか。(写真:ロイター/アフロ)

 INF廃棄条約は、米国とソ連(当時)が1987年に締結した史上初の核軍縮条約。射程500~5500km(中距離)の陸上配備型弾道ミサイルおよび同巡航ミサイルを廃棄、開発・保有しないと取り決めた。

 米ロの一連の動きには注目すべき点が3つある。第1は、米ロが互いを責め合っているように見えるが、実は、同条約が失効することに共通の利益を見いだしていること。第2は、同条約から離脱することで、米国が東アジアにおける軍事力の“不均衡”を解消できるようになること。第3は、第2の“不均衡”解消が、日本にメリットとデメリットをもたらすことだ。

INF廃棄条約の破棄、「言い出しっぺ」はロシア

 第1に挙げた米ロ共通の利益は、両国がそれぞれ抱える周辺国との軍事的“不均衡”を解消できるようになることだ。英国王立防衛安全保障研究所アジア本部(RUSI Japan)所長を務める秋元千明氏は「冷戦時代に結ばれたINF条約は現代の戦略環境に適したものではなく、むしろ安全保障の足かせになっているというのが米ロ双方の一致した見解」と指摘する。

 ロシアの周辺では中距離ミサイルを配備する国が増大している。イエメン、イスラエル、イラン、インド、韓国、北朝鮮、サウジアラビア、シリア、中国、パキスタンなどだ。このうちイスラエル、インド、中国は核保有国でもある。ロシアはこれらの国との間で、中距離核戦力における均衡状態を回復したいところだが、INF廃棄条約のため果たせずにいる。

 一方の米国も東アジア地域において、多数の中距離ミサイルを保有する中国、および北朝鮮との間に中距離核戦力における不均衡を抱える。この点は第2の注目点として後述する。

 実は、INF廃棄条約を破棄する可能性を先に示唆したのは、上記の国々に囲まれたロシアだった。ウラジーミル・プーチン大統領は07年10月に米国務長官および国防長官と会談した際、「条約の枠組み内にとどまることは難しい」「米ロ2国間の条約を世界的な条約に拡大すべきだと考える」と発言している。

続きを読む 2/2 米国は東アジアにおける戦力の均衡を図る

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