英国が中国問題で揺れている。1つは、新型コロナウイルスへの対応だ。
英航空大手のブリティッシュ・エアウェイズは1月29日、英国と中国を結ぶ直行便の運航を休止した。休止の対象は、ロンドンと北京、上海を往復する直行便で、香港便は引き続き運航する。28日に英外務省が中国への不要不急の渡航中止を勧告したことに対応した。
新型肺炎の発生源となっている湖北省武漢市とその周辺には300人ほどの英国人がいるといわれる。当初から、英国からの情報の少なさに怒りを募らせている様子が伝わっていた。米国や日本、フランス、オーストラリア、韓国がチャーター便などで自国民の帰還に乗り出す中、英政府の動きが遅いことも怒りに火をつけていた。「我々はゴーストタウンで見捨てられた」と訴える英国人もいた。
英政府は30日時点で、チャーター便で武漢市に住む英国人の帰国を実現できておらず、他の主要国に比べると対応の遅さは否めない。
中国からの便でイタリア・ミラノの空港に到着した、マスク姿の乗客(写真:PA Images/アフロ)
英国には中国人が多く、中国の現状を心配する声も聞かれる。ロンドン在住の20代の女性は、祖母が武漢市に住んでいるという。「医薬品の不足もあるが、武漢の封鎖で食料が足りなくなることも心配している」と話す。
新型肺炎への対応が注目される中で、英政府はもう1つの中国問題で大きな決断を下した。28日、次世代通信規格「5G」の通信設備で、中国の華為技術(ファーウェイ)製品の導入を一部容認すると発表した。基地局など5Gネットワークの全体の35%までの利用を容認し、核関連施設や軍事施設などでは扱えないようにする。
ファーウェイは研究開発投資も
英国は米国からファーウェイの完全排除の要請を受けている。ブレグジット(英国のEU離脱)後に、米国との貿易協定の重要性が高まるが、米国の反対を押し切って英国はファーウェイを容認した。英国は安全保障に関して専門組織の調査を基に判断したとしているものの、実際には既にファーウェイが英国で根を張ったビジネスを展開しているという事情に配慮した面がありそうだ。
1つの事情は、既に通信ネットワークにファーウェイの設備が多く使われている点。完全排除となれば、通信機器を抜本的に入れ替えなければならないため、大きな設備投資が必要になる。通信機器自体もファーウェイ製は競合他社より安いという優位性がある。
もう1つの事情は、研究分野での深い関係だ。ファーウェイは英国で大学などに研究資金を投じてきた。ファーウェイは2017年、英ケンブリッジ大学に共同研究グループを設置し、2500万ポンド(約35億円)を投資すると発表、共同研究の実績もある。19年には同大の近くに半導体の研究開発拠点を開設することを発表した。既に先進技術が共有され、関係を断ち切ることはできない可能性もある。
さらにテーマを広げれば、香港問題でも英国は中国との距離感に腐心してきた。19年にはデモに対して同情的な発言をした英国のメイ前首相を、駐英中国大使が非難する場面もあった。また、在香港英国総領事館の元職員が中国当局に拘束され自白を強要されたと語ったことについて、ラーブ英外相が中国政府に抗議すると、中国政府高官が強く反発した。
ブレグジットによりEUと距離を置く英国にとって、中国との経済関係は極めて重要だ。米国という最重要パートナーとの関係を重視しつつ、中国という超大国にどのように向き合うのか。1月31日のブレグジットの後は、その距離感に戸惑う局面がますます増えそうだ。
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