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 「1月26日午後2時から公共交通機関やタクシーなどの運行を停止し、27日午前0時からは特別の事情がある場合や物資搬入を除き、車両や船、人が市内に入ることを禁止する。道路も封鎖する」

 1月26日午前10時30分ごろ、中国広東省汕頭市政府が突然、上記の発表をした。新型コロナウイルスによる肺炎の流行を食い止めるため、湖北省の武漢市やその周辺では事実上、都市が封鎖される「封城」と呼ばれる措置が取られている。それに倣ったものといえる。

北京の地下鉄では駅に入る乗客の体温を測る措置を取っている(写真:AP/アフロ)
 

 すでに新型肺炎の感染者は中国全土に広がっており、中国政府は1月27日から海外への団体旅行を禁じた。ただ、感染者の大多数は湖北省に集中している。汕頭市でも2人の患者が確認されてはいたものの、湖北省とは遠く離れており圧倒的に少ない人数だ。封鎖を発表したのは湖北省以外の省では初めてで、他の都市でも同様の対策が取られるようになる可能性があるため、ニュースは全国で衝撃をもって受け止められた。

 ところが、事態は意外な展開をたどる。そのわずか2時間半後、汕頭市は「封鎖の撤回」を発表したのだ。

 当然のことながら、唐突に封鎖を宣告された汕頭市民はパニック状態に陥った。「通告が出されてから30分後には人がスーパーに群がり、米を奪い合った。価格もつり上げられた」。中国版ツイッターの「微博(ウェイボ)」には、こう書き込まれている。当局はその様子を見て慌てて撤回した。

 経緯を見ると十分に対策が練られたとも思えず、ずさんとしか言えない。こうした汕頭市当局の対応を中国メディアの新京報は「迷惑行為大賞」と批判。「封城は緊急時の非常措置であり、厳格な適用条件が必要だ」と指摘した。

 人の移動の自由は基本的人権の一つで、武漢市をはじめとした湖北省のような対応は日本では考えにくい。市民生活においても経済活動においてもダメージが大きすぎるからだ。中国共産党による一党独裁体制の中国政府だからできるといえる。中国国内でも封鎖を当然ととらえる人が多くいる一方で、衝撃を受けた人もいる。

 武漢市からは日々、切迫した医療現場の状況がソーシャルメディアなどを通じて報告されている。それにもかかわらず汕頭市は、なぜ都市を封鎖しようという極端な判断を下したのだろうか。

 習近平(シー・ジンピン)国家主席は1月25日、春節(旧正月)期間中としては極めて異例となる共産党最高指導部の政治局常務委員会を招集。新型肺炎対策には指導部直轄のチームで対応にあたることなどを決めた。海外への団体旅行禁止など、これまで見られなかった政策をちゅうちょなく取るようになってきている。

 しかし、感染がここまで拡大した背景には、初動対応の拙さがあったとみられる。当局は国民や海外メディアからの批判にさらされており、中国政府は信頼回復に躍起だ。

 地方政府の幹部や役人にしてみれば、この局面で感染拡大につながるような判断ミスを犯せば、国民はもちろん中央政府からも厳しく非難されることは避けられない。感染拡大防止に向けて打てる手を最大限打つ姿勢を見せることが、非難されないための最大の安全策となっている。汕頭市の朝令暮改は、そうした構図によって引き起こされたものだったのだろう。

 武漢市政府の初動の遅れも、同市の幹部や役人の保身や中央政府への配慮だった可能性が高い。汕頭市の一件も問題発生の原因は同じところにあるといえそうだ。経済でも見られる一党独裁の中国の弱点が緊急事態で露呈している。

   
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