米国政府が先端技術の中国流出を防ぐべく、対策の強化に乗り出している。
「WANTED(お尋ね者)」──。米連邦捜査局(FBI)は昨年末に、西部開拓時代から変わらぬキャッチコピーで新たな指名手配ポスターを公開した。お尋ね者は中国人ハッカー2人だ。

記者会見に臨んだクリストファー・レイFBI長官は、「中国当局は自国のハッカーに情報の窃取を依頼している」と危機感をあらわにした。
今回指名手配されたズ・ホワ氏とザン・シロン氏とは何者か。2人は2006年ごろから中国の諜報機関、国家安全省からの依頼に基づき、航空宇宙や製造、石油・ガス、通信など、国力の向上につながる情報を盗み出していた疑いがもたれている。中国天津市のIT(情報技術)企業に勤めながら、米国政府が「ATP10」と呼ぶ中国のハッカー集団に属していたとされる。
米国政府は14年に人民解放軍に所属する5人をサイバー攻撃の疑いで起訴して以来、中国人ハッカーへの警戒を強めている。米司法省は昨年10月にも中国・国家安全省の依頼を受けた複数の中国人ハッカーを起訴するなど、摘発の頻度も高まる。背景にあるのは激化する米中技術覇権争いだ。
米国政府は3月1日を合意の期限とする米中貿易協議でも、中国によるサイバー攻撃や技術移転の強要、知財侵害などを議論の俎上に載せる。合意に達しなければ、対中関税を大幅に引き上げる構えをみせる。

中国の産業スパイの摘発も相次ぐ。18年7月には自動運転技術を盗んだ疑いで、中国行きの飛行機に乗ろうとしていた米アップル元社員を空港で逮捕した。18年10月にはゼネラル・エレクトリック(GE)の航空事業部門から航空宇宙関連の機密情報を盗もうとしていた国家安全省の高官を訴追した。
米国政府は中国を念頭に、AI(人工知能)や量子コンピューターなど14分野で輸出・投資規制の強化する方針だ。
「技術覇権」の座は絶対に中国に渡さないとばかりに締め付けを強める米国と、ハッカーやスパイを動員して海外の先端技術の吸収を狙う中国。2大大国の争いに終わりは見えない。
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